10243 塗り替わる世界の産油国地図 加瀬英明

世界が大きく変わりつつある。
私は7月はじめをワシントンで過したが、議会や、研究所の関係者のあいだで、今後、アメリカ経済が力を甦らせることになろうと説く者が、多かった。
アメリカ経済は短期的には低迷している。今年の第1・4半期のGDP(国内総生産)の伸び率は1.9%だったが、第2・4半期は大きく落ちるとみられる。失業率は41ヶ月続いて8%台で、過去60年最悪である。
だが、中期的には、楽観視している。アメリカが7、8年以内にサウジアラビアを追い抜いて、世界で最大の産油国となるとともに、原油価格を決定する国(スウイング・プロデューサー)になると予見されていることから、自信をえている。
アメリカの専門家のあいだで、「サウジ・アメリカ」という新語が、用いられている。あるいは、アメリカが「ニュー・ミドル・イースト」(新しい中東)になるというのだ。
 オバマ大統領も、ロムニー共和党候補も、これからのアメリカの経済成長戦略の鍵として、化石燃料資源の開発を重視している。
アメリカは1950年代まで、世界最大の産油国だった。日本は昭和16(1941)年まで、今日、アブラをサウジアラビアに頼っているように、アメリカに依存していた。ルーズベルト政権が日本に対して石油を禁輸したために、対米戦争に踏み切った。
現在、アメリカは世界第3位の産油国だが、シェール・オイルも加わって、エネルギー自給自足を達成して、石油、天然ガスなどの輸出国となると期待されている。
なかでも、アメリカが先導する碎石(フラッキング)技術の飛躍的な向上によって、シェール・オイルが脚光を浴びている。硬い岩石層からガスを抽出することから、タイト・オイルとも呼ばれている。
いま、テキサス、オハイオ、ネブラスカ、コロラド、カンサス諸州は、シェール・オイルの生産によって、かつての“ゴールド・ラッシュ”もどきに、湧き立っている。
アメリカが世界一の産油国となることによって、ドルを垂れ流していたのが是正されるものと、期待されている。昨年からアメリカの石油輸入量が、20年以来の低いものとなっており、貿易赤字が縮小している。
ついこのあいだまで、アメリカが国力を衰退させてゆくという見方が流布されてきたが、アメリカは活力を取り戻してゆこうといわれる。
それとともに、世界の産油地図が大きく塗り替えられつつある。
とくに、カナダが存在感を増している。メキシコ湾から中南米にかけても、産油量が拡大している。
アフリカのケニアのサバンナや、ウガンダや、ガーナの沖合をはじめとする各地で、新規油田や、ガス田の開発が進んでいる。1970年代に、石油が有限の資源であって、近い将来に枯渇するという説が喧伝されたが、誤まっていた。
カナダの産油量が伸長した結果、アメリカにとってカナダが中国を追い抜いて、最大の貿易相手国となった。3位がメキシコであり、日本が4位となっている。
サウジアラビアは、アメリカが1ドル輸入するごとに、アメリカから29セントしか輸入しない。カナダは1ドルごとに、アメリカの工業製品、ソフトウェア、農産物などを、85セントを買ってくれる。
もっとも、石油や、ガスの生産が世界的に増大しても、原油価格が暴落することは考えにくい。
アジア開発銀行が『2050年のアジア』と題するレポートを発表しているが、2050年までにアジアのGDPが世界の半分以上に達して、「アジアの世紀」が本格化することになると、予測している。そのかたわら、アフリカ諸国の経済も発展しようから、エネルギーの消費が増大してゆこう。
杜父魚文庫

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