大阪府の橋下徹市長が、慰安婦問題について「慰安婦が軍に暴行、脅迫を受けて連れてこられたという証拠はない。そういうものがあったのなら、韓国にも(証拠)を出してもらいたい」と述べたことが話題になっていますね。
橋下氏の思惑云々を推し量る記事やコメントも目にしましたが、私は日韓関係について聞かれたから、素直に思うところを語ったのだと見ています。
第一、韓国側に日本を非難する証拠を示すよう求めることは、全くの正論だと思う次第です。少なくとも、日本側が八方手をつくして調べても、韓国人慰安婦に関してそういう証拠はいまだに一切見つかっていないのですから。
現在、韓国側は天皇陛下に謝罪を要求し、野田佳彦首相の親書を返送するなど、非礼と無礼を重ねていますね。もともとそういう国だと考えていたので意外性はありませんが、それでも砂を噛むような嫌な気持ちになります。
で、「韓国も日本政府もまったくなあ…」とこぼしていたところ、ふと10数年前に読んだ「日韓いがみあいの精神分析」(中央公論社、1998年刊行)を思い出したので、私が当時、アンダーラインを引いた部分を紹介します。
これは、私がたびたび引用している精神分析学者の岸田秀氏と、韓国人の金両基・静岡県立大教授(当時)の対談本で、歴代日本政府が繰り返してきたその場しのぎで妥協的で国論を踏まえない謝罪が効果を生まないどころか、ときに逆効果となる理由が的確に指摘されています。
また、この本が書かれたときから現在まで、日韓関係が基本的に何も変わっていないこともよく分かります。何とも空しい話ですが。
岸田氏 いやしくも一国の首相たる者が謝罪する以上は、謝罪すべきであるという国論の統一を踏まえ、今後ともこの方針で一貫するという確信をもって謝罪すべきだと思います。
そういう確信がなくて謝罪するというのは、その場の雰囲気で相手の機嫌をとるため、いい子でいたいために卑屈に謝罪していることにしかなりません。謝罪された側が「本気で謝っているんじゃない」と思うのも当然です。(中略)
金氏 私は、謝罪をすべきかどうかより、その前提が大事だと思います。謝罪すべき事実があったかなかったのか、ということです。それがあれば、日本側も事実にもとづいて「論拠があるから謝罪しない」と反論できるわけです。
(中略)一方、アジア諸国も、謝罪を要求する前に、要求の根拠となる歴史的証拠をまず出さなければならないと。資料をきちんと集め、資料が集まらなければ日本側からも提供してもらい、お互いに作業しあって事実を集めて、その上で議論するべきだと思います。それを今まで、政治レベルではやってこなかったんです。
岸田氏 韓国の政治家も、日本から謝罪を取り付けることで政治的名声を高めようとするわけでしょう。人気取りのために謝罪を要求する面があるじゃないですか。
前大統領が天皇の謝罪をかちとったから、自分も謝罪させないと面子が立たないと。韓国側も一貫性のある根拠をもって謝罪を要求しているのではなく、政治的人気取りのために謝罪を要求しているというところが見えるんです。
金氏 その雰囲気がないと言えば嘘です。謝罪を要求する人が、どれだけの事実を踏まえて言っているかも疑問です。(後略)
……まあ要するに、日韓関係は延々と同じ所をぐるぐると回っているわけですね。そしてときどき、日本人同胞を見下し、自分だけ良心的ないい子になりたいバカな政治家が余計なことを言ったりしでかしたりして韓国側に無意味な期待感を抱かせ、かえって問題をこじらせると。
ただ、この本で金氏も自ら言及しているように、日本に謝罪や賠償を求める国に対しては、少なくともその根拠と証拠を明確に示してもらわなければなりません。政治レベルでそれを要求することが必要ですね。その意味で、橋下氏の今回の提案は、大いにヒントになるものだと感じたのでした。
杜父魚文庫
10340 証拠は韓国側が示すべき 阿比留瑠比

コメント