自民党の重鎮、中堅、若手の中に次期総裁として若い石原伸晃幹事長の待望論が渦巻いているのは否めない。
しかし、いまの党内情勢は谷垣総裁が再選を目指し、町村派の町村信孝元官房長官と安倍晋三元首相、党内中堅・若手が推す石破茂前政調会長など総裁候補が乱立する気配をみせている。乱立すれば支持票が分散して、石原氏がブッチギリでトップ当選する可能性は薄まる。
仮に世論調査で人気上昇中の石破茂前政調会長がトップ、次いで安倍晋三元首相が二位となるとしよう。石原氏が三位以下だと、総裁公選規定によって、石破氏と安倍氏の決戦投票になり、石原氏の芽はなくなる。
この意味は、自民党の路線に響いてくる。石原氏を推す層は自民・民主・公明三党の提携路線を再構築し、参院でも多数勢力を保持しようと考えている。”ねじれ国会”の解消が最大の命題となっている。
安倍・石破両氏を推す層は、近く新党を結成する維新の会との提携路線である。民主党との提携は考えていないか、二の次になる。その結果、参院では少数与党にはなるが、来夏の参院選で自民・維新・公明三党で多数派を構築する考え方をとる。
党の重鎮からすれば、海のものとも山のものとも分からない橋下維新の会に乗る冒険主義はとれない。やはり民主党との提携・再構築に重点を置いている。
そのために、森元首相は安倍、町村両氏にも立候補を断念して貰い、古賀誠元幹事長は谷垣氏の再選を阻止して石原氏に一本化した集票工作を進めている。
いずれも水面下の動きだが、ここは石原氏にも慎重な動きを求めている。2日の講演で「谷垣氏を支えるために政治をやっているのでは決してない」と石原氏が踏み込んだ発言をしたのは、平地に波乱を起こすものとして押さえにかかっている。
<26日の自民党総裁選で再選を目指す谷垣禎一総裁が3日、出身派閥である古賀派会長の古賀誠元幹事長から不支持の意向を伝えられ、苦境に立たされた。足元を固めきれなかったことで、出馬断念に追い込まれるとの見方も出始めた。一方、2日に出馬への意欲を示唆した石原伸晃幹事長は3日、一転して慎重な姿勢を示した。
「自民党がもう一回、国民の信頼を取り付けるための最後の詰めを、私自身の責任でやらなければいけない。お助けいただければありがたい」。谷垣氏は3日、衆院議員会館で古賀氏と会い、頭を下げた。しかし、古賀氏は「私は若い人を思い切って支援したい。一緒に若い人を大きく育てていく努力をしませんか」と、支援を約束するどころか暗に出馬辞退を促した。
総裁選が候補者乱立の様相を呈し、票の分散が予想される中、古賀氏が谷垣氏不支持を明確にしたインパクトは大きい。出身派閥さえ固められなかったことで、「勝ち馬」に乗りたい他派閥が一斉に谷垣氏を敬遠しかねないためだ。
谷垣氏はこの後、党の会合で「私は総裁として反省を生かし政権を取り戻したい」と出馬の意思に変わりがないことを強調したが、ある閣僚経験者は「谷垣氏は出馬できないのではないか」と指摘した。
谷垣氏が古賀氏の支持を得られなかったのは、総裁として党役員人事や党運営で古賀氏ら派閥領袖(りょうしゅう)の声に耳を貸そうとしなかったためとみられる。その古賀氏の意中の「若い人」は、石原氏との見方がもっぱらだ。石原氏はこれまで政局の節目で、古賀氏や伊吹派会長の伊吹文明元幹事長らの意見を聞く配慮を欠かさず、重鎮にとって御しやすいとみられているからだ。
◇石原氏が谷垣氏に陳謝
森喜朗元首相も古賀氏と同様の考えとされ、2日の民放番組で「谷垣氏は限界」と明言。実質的オーナーを務める町村派の町村信孝元官房長官と安倍晋三元首相にも出馬を自重するよう求めている。石原氏は重鎮のこうした意向を意識してか、2日の講演で「谷垣氏を支えるために政治をやっているのでは決してない」と踏み込んだ。
しかし、幹事長として谷垣氏を支える立場の石原氏が出馬をにおわせた動きには、早速批判の声が上がった。ある中堅は3日、「衆院解散に追い込めない谷垣氏と石原氏は同罪だ。谷垣氏を追い落とそうとするのは筋が通らない」と語った。
こうした批判を気にしてか、石原氏は3日に予定していた古賀氏との会談を急きょキャンセル。党本部で谷垣氏と会い、2日の自身の発言について「迷惑を掛けて申し訳ない」と陳謝した。石原氏を囲む「勁草の会」メンバーも3日、石原氏への出馬要請の時期を慎重に見極めることを申し合わせた。(時事)
杜父魚文庫
10424 石原氏は一転慎重に 自民総裁選 古沢襄

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