米国大統領選が、民主党大会でのオバマ大統領の再指名受諾で本番スタートとなるなかで、オバマ氏の政治や思想の背景に批判的な光をあてたドキュメンタリー映画が全米で異例の人気を博すようになった。オバマ氏の出自や理念への米国民の模索や非オバマ支持層の警戒の強さが、その人気の原因といえそうだ。
この映画は「2016年=オバマのアメリカ」と題された約90分の政治ドキュメンタリー作品で、7月中旬にテキサス州ヒューストンの一劇場で初上映された。ところが反響が予想よりはるかに大きかったため、他の州の一般映画館でも次々に上映されるようになった。9月はじめの時点では全米で2千近く、首都ワシントン地区でも10の映画館で上映されている。
ドキュメンタリーの一般映画館での上映はそもそも珍しいのに、この作品は8月後半には他のアクションやコメディーの映画を抑えて、全米第2位の興業成績を記録した。9月第1週も全米7位となった。
この映画はインド系米国人の政治学者ディネシュ・デスーザ氏の著書を原作に同氏が監督と語り手を兼ねている。製作には「シンドラーのリスト」でアカデミー賞受賞のジェラルド・モーレン氏らがあたった。
さてその内容は、オバマ氏と同じ年齢で有色人種、同じ米国の名門大学で教育を受けたデスーザ氏が、ケニア人の反植民地主義闘士だった父親や親類との絆、米国の対外政策に反対していた母親の影響、インドネシアのイスラム社会での生活などオバマ氏の過去をたどっていく。オバマ氏が青年時代に接触した元共産主義者のフランク・デービス氏、反米パレスチナ支持派のエドワード・サイード氏、都市ゲリラ革命主唱のビル・エアーズ氏らの影響にも光をあてる。
そしてデスーザ氏は「オバマ氏の真のイデオロギー的理念は、米国がアフリカなどの開発途上国から搾取した植民地主義の結果の是正であり、そのために米国の力や富を相対的に減らすことを意図している」という結論を下す。「大統領就任直後にホワイトハウスにあったイギリスのチャーチル元首相の胸像を排除したことや、米国の一方的な軍備削減、核兵器削減もオバマ氏の真のイデオロギーの例証だ」とも断ずる。
デスーザ氏はいまはニューヨークのキングズ大学の学長だが、共和党保守派とも近く、レーガン政権の国内政策スタッフだった経歴もある。このためこの映画も民主党側からは反オバマ映画とみなされている。ニューヨーク・タイムズなど民主党寄りの大手メディアもこの映画については無視か、あるいは「反オバマのプロパガンダ」という扱いしかしていない。
しかし、全米各地での観客動員数では明らかに大成功で「政治ドキュメンタリー映画としては前例のないほどの人気を集め、ハリウッドを驚かせている」(ウォールストリート・ジャーナル紙)とも評された。
この意外な人気の背景には、前回の大統領選挙でもオバマ氏と過激派のエアーズ氏やデービス氏らとのつながりが一部で指摘されながら真相不明のまま終わったことや、オバマ大統領の4年近くの施策でなおその真の理念がわかりにくいことが作用し、同大統領の出自のナゾへの有権者の探究心をあおったという要因がありそうだ。(産経)
杜父魚文庫
10457 「反オバマ映画」人気の理由 古森義久

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