10468 谷垣氏の突然の出馬辞退と永田町を席捲する光秀と 阿比留瑠比

本日、自民党の谷垣禎一総裁が総裁選(14日告示、26日投開票)への不出馬を表明しましたね。まあ、政治家としての谷垣氏はあまり評価していませんが、石原伸晃幹事長に寝首をかかれ、党長老たちに圧力をかけられてのことだと想うと、「せめて総裁選で堂々と雌雄を決する機会ぐらい与えてやれなかったものか」と少し気の毒になりました。
で、谷垣氏の不出馬により、俄然有利となったとみられる(と言ってもまだ全然分かりませんが)石原氏について、ここ数日、永田町や新聞紙上で「平成の明智光秀」と呼ぶ表現が目につきますね。石原氏はもともと、谷垣氏が立候補する場合は出馬せずに支えると明言していたわけで、配下の裏切りという意味ではその通りです。
また、国会議員は自分自身や政治情勢を歴史上の人物や歴史的場面になぞらえることが好きなので、これまでも自称・坂本龍馬なんかはけっこういましたが、やはり光秀となると考えさせられますね。
そこで、いつごろから新聞記事にこの表現が登場したのかなあと先ほど、新聞記事の切り抜きスクラップ作業をしつつ、目についてものを紹介しようと想います。ほぼ各紙に登場しているので、各社の記者が「なるほど、この表現はいただきだ」と飛びついたことがよく分かります。私が担当記者であっても、やはり使わない手はないと考えたことでしょう。
4日付産経 《3日なって、谷垣氏に30分以上にわたって「(『谷垣氏を支えるために政治をやっているのではない』と述べたのは)誤解を招いた。他意があったわけではない」と陳謝した石原氏。ある党幹部は「まるで明智光秀。恩をあだで返す行為だ」と激怒した。》
4日付日経 《出馬の意欲を示した石原氏には3日「平成の明智光秀だ」「主君を裏切って派閥の領袖におもねる。脱派閥を掲げるこちらは戦いやすい」など(安倍、石破)両氏周辺からけん制する声が相次いだ。》
4日付朝日 《執行部にいる石原氏が総裁選に意欲を示したことには「明智光秀だ」(谷垣氏周辺)との批判も出ている。》
5日付毎日 《出馬に意欲を示す石原伸晃幹事長(55)が、谷垣禎一総裁(67)に出馬断念を迫る党長老らの支援を受けていることで、イメージ悪化に苦慮している。党ナンバー2として谷垣総裁を支えるべき立場とあって、党内からは「平成の明智光秀」との批判も上がる。》
7日付朝日 《(谷垣氏が)石原氏と一本化しようにも、側近同士の不信感は強い。石原氏周辺は6日、こう漏らした。「『光秀』発言もあったし、信頼関係は簡単には取り戻せない」》
7日付毎日 《自民党内では、幹事長として総裁を支えるべき石原氏の出馬意欲に「平成の明智光秀」などの批判も出ており、派閥長老側も軌道修正を図り始めた。》
8日付朝日 《(石原氏が)意欲を示すと、「明智光秀だ」(閣僚経験者)と批判が吹き出した。谷垣氏は7日の会見で感想を聞かれ、「私のホームタウンの福知山城主は明智光秀だ」とけむに巻いたが、党内では「無理難題に耐えかねて反乱した光秀より始末が悪い」(閣僚経験者)との評価が広がる。》
8日付毎日 《「私のホームタウン(地元)である福知山の城主は明智光秀だ」。谷垣氏は7日の記者会見で、石原氏が「平成の明智光秀」と批判されていることへの感想を聞かれたが、こう言ってけむに巻いた。》
……「党幹部」だとか「閣僚経験者」だとか別の人であるかのようにも書かれていますが、これは同じ人のことをぼかして言っているだけだと思います。同時並行的に「光秀」という連想をした人はほかにもいるかもしれませんが。
で、私がたまたま見落としたのか、それとも石原氏がナベツネ氏と個人的に親しい関係にあることを慮ってか、読売では「光秀」の例えを見つけることができませんでした。まあ、いずれにしろ、これで混迷の自民党総裁選は候補が一人減ったわけですが、執行部の一本化を目指した谷垣氏が脱落したからと言って、「谷垣票」がそのまま石原氏に流れるということにはなりません。
むしろ、谷垣氏側近議員らには石原氏に対する「恨み骨髄」といった思いもあるでしょうし、これまでは谷垣氏支持の構えだった他派閥の麻生太郎元首相(麻生派)や高村正彦元外相(高村派)、河村建夫元官房長官(伊吹派)らがどうするのか、という点も興味深いですね。
もう親分や偉い人が「あっち」と言えば下はみんな従う時代ではなくなりましたが、自民党の国会議員自体が随分減ってしまったので、一人ひっくり返っただけで大きな影響が出ます。古賀誠元幹事長(古賀派)は本当に最後まで林芳正氏を担ぐ気なのかどうかなど、全く読めない地方票どころか、国会議員票すら実際のところどう動くか分かったものではありません。
きょう取り上げた石原氏にしたところで、谷垣氏降ろしには成功したものの、この「光秀」の烙印はしばらく消えないでしょうし、長老の寵愛があるからといって、そうすんなりは勝てないでしょう。ともあれ、一部の新聞は早くも「党内抗争」だと批判を始めましたが、私は「我こそは」と思う人がどんどん出て、堂々と主張を戦わせるのはいいことだと思っています。
あと、私は谷垣氏の突然の出馬とりやめを聞いて、この「光秀」の名付け親の党幹部が、最後の局面で自分自身が本当の「光秀」になって谷垣氏に引導を渡したのではないかという疑いを覚えました。まあ、穿ちすぎの誤った「カン」かもしれませんね…。ちなみに私は、自身のカンなど全く信用していないのですから、ここは蛇足でした。
杜父魚文庫

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