10503 あるベトナム人医師の死 古森義久

こんな記事を書きました。デ医師一家との交流はベトナム戦争時にまでさかのぼる古い話なのですが、あの戦争と人間の生き方のすばらしさ、悲しさを集約したような体験として、いまも私の内部には熱く活きています。とくにデ医師の子供さんたちがアメリカ社会で、アメリカ人として活躍している様子は、胸を打ちます。
<<【外信コラム】ポトマック通信 ベトナム人医師の訃報>>
「父が急死しました」。ベトナム系米人のアリーン・グエンさんからメールでの訃報が届いた。
30代の麻酔専門の女医アリーンさんの父の内科医デ・グエン氏が観光旅行中のモスクワで病死したというのだ。肺の疾患、70歳だったという。
グエン一家とは1970年代、戦火の南ベトナムからの旧知だった。最初はすでに小児科医だったデ氏の妻ニュンさんと知り合った。
デ氏は革命勢力側に捕まり、中部の山中で医師として働かされていた。
記者として革命側に招かれた私はその山中でデ氏と会った。間もなく彼は脱出して南ベトナム政府側地区に戻った。だがすぐにその政府が革命側に粉砕されて、 一家は米国へと逃げたのだった。
米国では夫妻とも苦労して医師の資格を取り直し、3人の子供を育てた。アリーンさんの姉ドーンさんは整形外科医となり、文字どおり医師一家となった。
私は数年ごとに一家との旧交を温めてきた。前回は6年前、アリーンさんの医学部卒業を祝う集いに招かれていた。
「父は母やベトナム時代の友人たちとともに旅行中で、親しい人間に囲まれて旅立ったことは幸せだったでしょう」
アリーンさんのそんな前向きな言葉はベトナム難民の成功を改めて感じさせた。
杜父魚文庫

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