10628 書評「シークレット・ウォーズ」  宮崎正弘

中東の裏側に繰り広げられたインテリジェンス戦争の内幕。シリアの核武装はいかにして食い止められたか。イスラエルの生存をかけた戦い。
<ロネン・バーグマン著、佐藤優(監訳)、河合陽一郎訳『シークレット・ウォーズ  イランvsモサド・CIAの30年戦争』(並木書房)>
本書の監訳者でもある佐藤優(元外交官)は、「この本の秘密情報には30億円の価値がある」と言って「推薦の辞」にしている。
日本にはなじみの薄い中東情勢のインテリジェンス戦争の実態が、過去30年に遡って叙述され、一大スペクタクルとなった。喫緊の課題は「イスラエルはいつイランの核施設を空爆するか」に絞られる。
イスラエルがイランの核開発施設を空爆する?いま日本のマスコミと左翼が意図的に騒いでいるオスプレィ配備反対運動だが、なぜ誕生したのか? 
1980年、イランの米大使館で人質となったアメリカ人を救出するため、ときのカーター大統領は特別チームの奇襲を行わせた。ところが砂漠の嵐によってヘリコプターが故障、作戦は無惨な失敗に終わった。
カーターは大統領選で惨敗した。
このときの手痛い軍事作戦の失敗が、新型の柔軟対応ができる攻撃型ヘリの必要性をうみ、それがオスプレィとなった。沖縄で反対を叫ぶ、札付きの左翼活動家とて、反対集会はいまや150人しか集まらない。
脇道に逸れたが、ともかくイスラエルがイランの核施設を空爆する可能性がある。
なぜなら過去の実績をみればよいではないか。1981年4月19日、イスラエルを飛び立った六機はイラク上空へ進入した。フランスの支援で完成間際だったオシラク原子炉を空爆、破壊した。
2007年9月6日、イスラエル空軍はシリアの秘密基地を空爆破壊した。これもシリアが秘かに進めていた核施設だった。
さて本書の「30億円の価値」の一端を紹介しよう。
ある日ある時、そう。2007年2月、トルコのイスタンブールから、この物語は始まる。
イランの元国防副大臣がイスタンブールのホテルから忽然と姿を消した。かれはアーマドネジェッド大統領の誕生によって身の危険を感じ、家族ごと米国への亡命条件として、軍事機密の数々をもたらした。
「アメリカはイラン政府の最深部の秘密に光をあてた」そのなかでも特に注目を引いたのは「イランが北朝鮮とシリアの核施設建設に資金を提供していることだった」。
▼最初の報告はCIAもモサドも疑問視したのだった
北の核は明らかになっていたが、誰もシリアが核開発に熱中していることを知らなかった。そんな筈はないと考えられていた。
シリアは「サリンガスを詰めた爆弾数千発」と「弾頭」、その後開発が進んでVXガスの存在が知れ渡っていたが、前者ふたつらはソ連とチェコ製で80年代のことだった。爾来、シリアの化学兵器が脅威だったが、VX工場は謎の爆発事件で灰燼と期した。
しかしシリアのような国がまさか核兵器にも手をつけていたとは!シリアでの政権交代(父親の死で息子が継いだ)が切っ掛けとなった。
息子のバシール・アッサドは父親より過激で危険で、ヒズボラへの支援を父親のように「政治的武器として駆使した」だけよりも、もっと活用する野心を秘め、同時にイランとは軍事秘密協定を結ぶことに躊躇しなかった。
とはいえ「アメリカとイスラエルはシリアの核開発に関する報告を疑問視した」。
注意深い観察が進められ、2000年6月12日に北朝鮮の核技術者とイラン高官との秘密会合が開催されていたことを掴んだ。以後も秘密会議は継続され、この間に「北朝鮮のナンバー2と目されていた金正男がダマスカスを極秘裏に訪れている」という驚くべき事実が判明した。
なんだ? これは!
「シリアと北朝鮮の高官会議で詳しいことが決められ」、「資材、また北朝鮮の科学者や技術者を乗せた船がシリアに到着し始めた」
そして2003年に撮影された偵察衛星の写真で「ディル・アルズールにサイコロのような形の建物が写っていた」
イスラエルのスパイ衛星は軍事施設観の活発な移動ならびに四つの工場が建設されていることを把握した。
「2007年9月6日午前三時、7機のイスラエル空軍のF15Iが離陸し地中海を北へ飛んでいった。乗員達は破壊する標的の正確な位置を知っていた」が、それが何かは知らなかった。
「標的は三つの建物で22発のミサイルを発射した」シリアの核武装の野望は潰えた。
このような秘話が満載、本書はインテリジェンス戦争の本質を生き生きと伝えて呉れる。

杜父魚文庫

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