10663 経済戦争はすでに始まっている   宮崎正弘

中国の対日経済制裁は、経済戦争の宣戦布告に等しい。尖閣諸島をめぐる日中間の係争で第壱弾の現場はレアアースだった。
次世代エンジン、携帯電話の部品に絶対不可欠の原材料である。突如、レアアース禁輸措置にでた中国は、一方で日本企業のレアアース加工工場を中国誘致という成功例に導いたが、昭和電工など進出は二社にとどまり、他方、日本はレアアース供給源を南米、米国、カザフスタン、マレーシアなどに一気に多角化した。
安全保障の根幹にあるリスク分散の措置を遅ればせながら執った。この結果、中国は言い値で買ってくれた大事な顧客(日本)を失って、レアアースシティといわれた内蒙古自治区パオトウは悲鳴をあげるに到った。
九月の反日暴動に付随して中国は経済制裁にでた。陰湿に税関検査を遅らせて自動車部品の輸入を遅延さえ、生産を遅らせる手法が用いられ、たとえばトヨタはレクサス生産工場で生産停止に追い込まれる。住友化学など、原材料が工場に着かなければ操業停止となる。
そしてこう言い放つ。「経済反制『購島』中方手握 王牌」(日本の尖閣国有化に対して中国の対日経済制裁は王手をかけた)、「可採連串『精確打撃』日経済料難承受」(連続しての制裁手段に日本経済は大被害を覚悟せよ)。
次の手段を行使せよと中国の新聞には書いてある。
 ――日中貿易で日本の中国市場への依存度は30%である
 ――レアアースの対中依存度は49・3%である
 ――中国と韓国との間でFTAが成立すれば日本企業は関税比で不利になる
 ――日本への中国人旅行者が激減する
 ――金融手段。中国は日本の国債を18兆円分保有している。いまや外国投資期間で日本国債最大の投資者は中国である
さきにこれらの中国側の対応の愚妹さに反論しておくと、第一に日本から中国への輸出は製造機械、ロボット、原材料などで、これらで中国は製造が可能となっているのが実態。日本が建機、クレーン輸出をやめると、困るのは中国である。JUKIなどミシンの輸出を日本がやめると数千、数万のアパレル、繊維産業が立ちゆかず、失業が溢れ(すでにミシン工は数百万が解雇の危機にちょく面している)、困窮するのは中国ではないか。
第二にレアアースは既にパオトウ、イリンホトで輸出業者が悲鳴をあげている。内蒙古自治区は石炭とレアアースで持っている脆弱な構造であり、日本に勝っていただけなるとダンピングして田のバイヤーをみつけなければならない
第三にFTAが韓国と結ばれても、日本が韓国の工場で生産し「韓国製」として対中輸出する迂回路があって、影響は微弱だろう。
第四に日本へ来る中国人ツアーは評判が悪いうえ、値切るので儲けがない。旅館は設備、備品が盗まれるのでホンネはきてほしくなかった。団体客のキャンセルで巨額損出をだしたホテルは中国人経営が殆どである。観光業界の一部をのぞき、多くの日本人は中国からの団体ツアーが減ったことを歓迎している。
第五に中国が日本国債を購入しているのは、それが金融商品として有利だからで、たとい中国が報復だと言って、市場で売却しようが、日本国債の人気に陰りはない。
現象的な被害を見渡すと、次の変動要因がある。
――アディダス、中国工場閉鎖
――トヨタ、中国での生産半減、日本車販売が急減。日産も減産と操短。
――レアアース、日本は中国から代替生産地を確保
――フィリピン、中国撤退組はいらっしゃい
――ヤマダ電機、出店計画見直し、コンビニも出店加速勢いとまる
――フランスの高級ホテル「中国人観光客お断り」
――中国観光業界が「日本からのツアー激減」で悲鳴をあげた
日本企業は14600社が中国へ進出しているが、このペースがぴたりと止んだ。
トヨタ、日産、ホンダは減産に踏み切ったので、工場は稼働率がガタンと落ち、いずれ工員の大量解雇となるだろう。しわ寄せは中国人労働者にいく。関連部品、下請け、孫請けの日本企業も撤退を検討し始めているので、他方では労働者のストライキが頻発し、さらに操短、停止がつづくことになる。
▼企業は深刻に「チャイナリスク」を考えるとき
自動車に限らず、ほぼ全ての産業が中国での生産減産、一部撤退、数年後に完全撤退というシナリオの検討に入った。
保険業界は『反日暴動』リスクを勘案した保険の掛け金を一斉に引き上げるか、或いは保険の受付を停止するだろう。
これらは無法国家である中国側に全責任がある。まさに石平氏が次のようにまとめる。
「中国の法的秩序を維持して内外の企業や人民の安全を守る義務を有する中国政府は、その時には事実上、自らの義務を完全放棄して違法的破壊行為や略奪を容認していた。つまりこの国は、場合によっては完全な無法地帯と化してしまうこともあり得るのである。
しかも反日デモ収束後、莫大な損害を被った日本企業に対し、中国政府は責任を取って賠償するつもりはまったくない。それどころか、お詫びの一言すら発していない。「全ての責任は日本政府にある」と当の中国政府が言っている程だ。この国はまったく、世界の基準から大きく外れた「無法国家」なのである。
このようなとんでもない「無法国家」に、日本の企業が安心して根をおろしてビジネスができるのか、まったくの疑問なのである」。
 
すでに筆者は七年も前に『中国よ、反日有り難う』を書いたし、五年前には『日本企業は中国から撤退せよ』(阪急コミュニケーションズ)と連続して書いてきたので、これ以上、撤退の勧めを演繹するつもりはないが・・・。
杜父魚文庫

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