アメリカのジャーナリズムも貧すれば鈍するということでしょうか。
<<■【緯度経度】ワシントン・古森義久 中国機関紙を「転載」する米紙>>
産経新聞がもしロシアの政権与党の機関紙を自紙の一部として載せて読者に配ったらどうだろう。日本の報道機関としての自主性を捨てる行為として広く糾弾 されるだろう。だが米国の大手紙は中国共産党の英字新聞を自紙のなかに織り込んで堂々と売っている。自主や不偏をうたうジャーナリズムでは世界の先頭をい くはずの米国のメディア界にはそんなゆがみも存在するのである。
ワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズの両紙が9月28日、尖閣諸島に対する中国政府の巨大な意見広告を掲載した。「釣魚島(尖閣諸島の中国名) は中国に帰属する」という大見出しの記事ふう広告である。両紙ともニュース・セクションの中ページに両面見開きの扱いで、ワシントン・ポストの方は一般ニュース記事に囲まれていた。
両広告とも最上段に小さく「広告」と記されていたが、すぐその下にずっと大きな見出しで「チャイナ・ウオッチ」「チャイナ・デーリー 中国日報」とあるため、もしかして一般の記事かなとも思わせる。
こんな意見広告が米国の最有力2紙にこれほど敏速かつ顕著に、しかも一般記事ともまどわされる形で出た背景には、実はこの2紙がここ2年ほど毎月1、2 回、定期的に「中国日報」(チャイナ・デーリー)を自紙の一部に入れて、刊行し、配布してきた実態がある。ワシントン・ポストもニューヨーク・タイムズも中国日報の一部を自社の新聞のなかに組み込んできたのだ。だから中国日報はすぐに今回のような広告も出せるのだろう。
中国日報は中国共産党中央宣伝部が直轄する英字新聞である。同共産党の公式の機関紙は人民日報と光明日報とされるが、中国日報も英文の同党機関紙だといえる。同党の主張を対外発信するプロパガンダ新聞であり、ニュースも同党の望む形でしか載せられない。
だからワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズが中国共産党機関紙の内容を「チャイナ・ウオッチ」という別題をつけながらも、そっくり載せることへの批判は米国メディア界内外でも頻繁に表明されてきた。
「中国政府の政治プロパガンダ拡散であり、とくにワシントン・ポストはウェブ版のチャイナ・ウオッチが広告か記事か区別がつかない」(アトランティック誌ジェームズ・ファロー記者)
「広告といっても、米国民に中国共産党の思考や影響を広める道具となっており、メディア倫理に反する」(ノースカロライナ大学ジャーナリズム学科ロイ・ボイントン教授)
事実、チャイナ・ウオッチには「世界の大多数の国はノーベル平和賞の劉暁波への授与には反対」などという記事が載るのだから、ひどいプロパガンダとみなされるのは当然だろう。当のワシントン・ポストは「あくまで広告としての折り込みだから問題はない」(フレッド・ハイアット社説担当編集長)と反論する。
ではその広告としての報酬はどれほどか、同紙は「その情報は出せない」(広報担当ジェニファー・リー部長)という。しかし、外国政党が米国内での活動として米司法省に届け出たところによると、チャイナ・デーリーから前述の2紙を含む米国内の4紙へのここ半年間の支払いは合計720万ドル(約5億6千万円)とされていた。
中国のこうした果敢な対米情報工作は日本も十二分に注意すべきだろう。
杜父魚文庫
10666 中国に買われたアメリカ大手新聞 古森義久

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