朝の食事が終わったら、信州の従妹に電話。暮れの酒の追加注文につもりだった。十歳年下の従妹は酒屋に嫁いで、いまでは息子が信州銘醸の社長になっている。
従妹は滅法明るくて、おまけにお喋り。この性格は少女時代から変わらない。私は、どちらかというと無口の方だから、従妹が機関銃のように喋りまくるのを、聞くしかないのだが、それが結構、楽しい。
電話に出た従妹は「ジョーちゃん元気!」。それ!機関銃の掃射が始まると身構えて、要件の方をこちらから切り出す。
「ことしは甘酒を造るのかい」。私の方もいつの間にか信州弁になっている。
「甘酒?にごり酒を十二本も注文したばかりじゃーない。もう八十歳になったのでしょう。十二本は多すぎるのよ。それに甘酒なんて・・・」
「分かった!分かった。にごり酒を六本に減らして、甘酒を十二本にしようと電話をしたんだ」
信州銘醸の甘酒は評判がいい。昨年も送って貰った。にごり酒は十一月に西和賀町を訪れるお土産のつもりでいる。自宅で楽しむ酒に甘酒を追加注文したのだと、機関銃の掃射の合間を縫って説明するのに苦労する。
「フーン・・・。甘酒は一升ビンでない小瓶の方がいいのよ」。どうも酒屋の大奥様らしからぬ欲のなさだから、他人事ながら気がもめる。
「一升ビンにしてくれよ。二日で飲み干すから・・・」
「うちの甘酒は添加物がないから、栓を抜いたら置いておくわけにいかないのよ」と従妹は小瓶にこだわる。ようやく説き伏せて、一升ビンにして貰った。どちらが商売をしているのか分からない。
ご主人を数年前になくして、長年つかえたお舅さんも昨年に亡くなった。共通の従兄である北海道大学の名誉教授だった茅野春雄氏も昨年亡くなっている。
「一度、いとこの会をやろうよ。お酒は私のところで出すから・・・」と従妹は言っていたのが、それも果たしていない。一昨年、信州を訪れた時に従妹も交えてホテルで一族の食事会をやったのだが、その主役だった叔母もいまは病院生活。
その見舞いも出来ずにいる。従妹との電話が終わると、さすがに疲れを覚えた。だが、母の里である信州の山々が妙に懐かしくなる。来年は何としてでも信州を訪れたい。
杜父魚文庫
10678 従妹の信州銘醸の甘酒 古澤襄
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