英ロイターは「”世界の警察”降りた米国、中東政策は置き去り」と痛烈な論評をオバマ中東外交に加えた。大統領選ですっかり内向きとなった米国は、火種を抱えているイスラエルとパレスチナ関係についても後ろ向きだ。
ロイターは中東政策を置き去りにする米国について、これではイスラエルの自制が効かなくなる可能性もあると警鐘を鳴らしている。
<ニューヨークで先週開催された国連総会で、一般演説に立ったオバマ米大統領は、米国の価値を守り、世界に民主主義を広げていくための覚悟を力強く語った。しかし、そこですべてが語られたわけではない。大統領が本当の「演説」をしたのは、明らかに選挙優先で出演した主婦層向けテレビ番組の中だった。
外交問題専門家の多くは、国連総会に集まった各国首脳と会談することができたにもかかわらず、それをしないでテレビ番組に出演したのは時間の無駄だと批判している。
しかし、過去数カ月間のオバマ政権の外交姿勢を見ると、シリア内戦やリビア問題に背を向け、核開発が疑われるイランに軍事的脅威を与えることに躊躇し、中東和平への関与を拒むというのが現実だったのだ。
米国は最近、世界の舞台で自国の負担を軽くしようとしている。長期的には、こうした外交政策と軍事政策の見直しは、平和の果実を米国にもたらすかもしれない。ただ短期的には、事態が急速に悪化し、過去の米国大統領なら介入していただろう3つの国際問題が存在する。1つずつ見ていこう。
1.シリア
アサド政権は嘆かわしい行動を繰り返している。しかし、米国は反体制派の支持には極めて消極的だ。さらに言えば、米国がリビア問題とは異なる対応をシリアで取る理由は何も見当たらない。シリアに介入しても、同国内外で米国の利益が有利になるかどうかは全く不透明だ。
イラクで米国が得た教訓はシンプルだ。民主主義を築くのは非常に高く付くというものだ。そしてリビア問題からは、体制変革には負担が伴い、簡単には達成できないという教訓を得た。
シリアに関して言えば、内戦は周辺国にも飛び火し始めているが、米国などの介入をロシアは支持しないだろうし、アサド大統領を止める手立ては少ない。その影響で中東はさらなる不安定化に陥るが、オバマ政権はそれでも構わないと決めたように見える。
2.イラン
核兵器開発が疑われるイランへの国際的圧力を高めることについては、米国はいい仕事をしてきた。イラン核問題は今や世界の問題だ。しかし、中東情勢の現状を踏まえれば、イランにどれほど圧力をかけられるだろうか。オバマ政権は「イランよ、核兵器開発を止めろ。さもなくばどうなるか」と脅すことはできる。しかし「さもなくば、何だ」というのが実際に問われている。現在の環境では、イランに対して「越えてはならない一線」を設けるのが大きな問題なのだ。
報道によれば、米国はイランの核施設に妨害工作を行っているが、イスラエルの現政権は、米国が武力行使に二の足を踏んでいることに苛立ちを強めてる。一方でイランは、自国民の目を経済制裁からそらすため、対米戦争の宣言に前向きであるように見える。
3.イスラエルとパレスチナ
対イランでは敗者のように見えるかもしれないイスラエルだが、11月の米大統領選の勝者が誰になろうと、パレスチナ問題では勝者だ。
ロムニー氏は、5月にフロリダ州で開催された資金集めイベントで「パレスチナ人は和平を望んでいない」と発言したことが明らかになった。過去、大統領候補からこんな発言が飛び出したことがあっただろうか。言い換えるなら、ロムニー陣営もオバマ陣営も、さらなる無意味な和平協定に政治資金を使うつもりなどないのだ。
米国の政治家からイスラエルへのメッセージはこうだ。「われわれは問題を解決しようとした。これ以上は和解に圧力をかけたりしない。幸運を祈る」。世界では反米デモにつながる要因が十分に存在し、米国はこれ以上火種を抱えたくない。イスラエルは、パレスチナとの交渉でほぼフリーハンドを得たと言える。
パレスチナにとっては、米国から支持が得られなくなることを意味する。つまり、イスラエルの自制が効かなくなる可能性もある。
以上見てきた3つの国際問題が、11月の大統領選で外交政策の争点になる可能性はほぼゼロだ。米国民の視線は、景気や失業など内政問題に向いている。
ロムニー氏はオバマ大統領を「弁解者」や「悲観論者」、「陰に隠れた非愛国的指導者」などと呼ぶが、実際には両者が訴える外交政策に大きな差はない。ロムニー陣営はオバマ陣営を攻撃するためにテーマを設定するが、それは単なるBGMに過ぎない。(ロイター)
杜父魚文庫
10692 中東政策は置き去りのオバマ外交 古澤襄

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