10705 通貨でも日本市場を奪取しようとする中国  宮崎正弘

「人民元のオフショア市場」は香港、シンガポール、ロンドン。東京市場は人民元オフショア市場開設で中国に義理をはたす必要はない。
通貨でも日本の市場を奪取しようとする中国は「尖閣通貨戦争」をしかけているのだろうか。通貨覇権をねらう中国は、人民元による貿易ならびに商業決済の通用範囲を急拡大させてきた。
IMF・世銀システムとは戦後の世界経済の基軸通貨をドルとした、米国の経済覇権の確立が本質だが、この基本スキームに日本円をおしのけて、人民元が鎮座まします、というのが中国の野心である(SDRはドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、日本円でなりたち、日本円のシェアは3%。周小川・中国人民銀行総裁は、このシェアを人民元が代替すると主張してきた)。
まっさきに「北京の代理市場」である香港が「人民元オフショア市場構想」に乗ったのは当然の流れだが、つぎにロンドンがビッグバンにおけるウィンブルトン形式にあやかるように、市場を開設し、中国の国債を扱う。
ウィンブルトン方式とは、他国に会場を貸して、繁栄するテニス大会にヒントを得て、ロンドン市場を海外投資家と金融機関に開放した。
人民元オフショア市場は香港とロンドン(嘗て香港の宗主国だ)が大きく、この列にシンガポールが猛追している。
シンガポールは華僑の人口国家、その金融センターを香港と競う以上、人民元オフショア市場への参入は不可避的である。
しかし日本が、この列に加わる義理も必要性もない。まして米国が「日米同盟」を唱い、中国の通貨覇権の動きに不快感を表明しているのに、日本が積極的に加わることは国益にかなうか、どうか。ニューヨークタイムズは日本が中国国債7800億円を購入するとしたとき、批判的な記事を書いた。
▼通貨も経済主権をまもるということではないのか?
中国が対日経済制裁をだまって実施している現実を前にして、日本は静かに人民元オフショア市場を凍結するのが国益というものだろう。
ほかに僅かながら台北、クアラランプール、そしてルクセンブルグに人民元オフショア市場が開設された程度で、世界的規模で今後の発展が望まれた矢先、中国は不況入りした。人民元の需要が激減した。
ところが、シンガポール市場で空前のIPO(株式公開)を人民元オフショア市場を利用して、かの李嘉誠がこころみる。
李嘉誠といえば、誰もが知っているが東洋一の財閥であり、香港の不動産王であり、彼の旗艦企業の「長江実業」と「和記(ハッチソン・ワンポア)二社だけの時価総額が香港株式市場の30%前後というジャイアン。
この李嘉誠がシンガポールで経営にからむ「ARA アセット・マネジメント社」が、つぎに「ダイナスティ REIT」(REITは不動産担保信託)をシンガポールの人民元オフショアに上場し、8億ドルを調達しようというのだ。
金額的には小さな計画だが、なにしろシンガポールの一年定期預金の利息は0・25%、かたやREITの平均利回りは6-7%だから、現在のシンガポールの人民元オフショア市場の規模は879億ドルに膨らんでおり、人民元預金総額370億ドルを上回っている。
 
「ダイナステイ REIT」は李嘉誠が持つ上海、大連、南京の商業ビルを物件担保として、その不動産運用益を配当に充てるという(ウォールストリートジャーナル、10月10日付け)。
シンガポールの人民元オフショア市場でのREITはすでに25社が上場しており、8社にとどまる香港より大きくなっている。
   
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読者の声  DOKUSHANOKOE どくしゃのこえ 読者之声
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(読者の声)中国の知識人が「中国よ、理性を取り戻そう」とネットで呼びかけると、たちまち500人の署名が寄せられて、中国も捨てたもんじゃないな、と思いましたが、前向きな中国人知識人もいるのですね。(HG生、名古屋)
(宮崎正弘のコメント)理性のある知識人が僅か500名しかいないというのが問題でしょう。あとは理性とは何のことかわからない。
IMF総会が東京で開催されるというだけの理由で周小川・中国人民銀行総裁はドタキャンですから。歴代日銀総裁に、これほどの理性欠如人間はいなかった。
これで通貨直接取引の凍結・中断を日本は宣言しても二の句もつげないのではないでしょうか。それにしても財務省、日銀も決断がにぶい官僚ばかりです。
杜父魚文庫

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