10707 地に落ちたかアメリカのジャーナリズム  古森義久

アメリカの有力新聞が中国共産党に紙面の一部を売り渡した話のつづきです。
実は、この2紙がここ2年ほど毎月1~2 回、定期的に「中国日報」(チャイナデイリー)を自紙の一部に入れて、刊行し、配布しているという実態がある。
ワシントン・ポストもニューヨーク・タイム ズも、中国日報の一部を自社の新聞の中に組み込んできたのだ。だから中国政府は、中国日報の紙面を使って今回のような広告をすぐ簡単に出せるのである。
中国日報は中国共産党中央宣伝部が直轄する英字新聞である。同共産党の公式の機関紙は「人民日報」と「光明日報」とされるが、中国日報もランクは一段、下がるとはいえ、英文の立派な同党機関紙なのである。
中身は中国共産党の主張を対外発信するプロパガンダ新聞であり、ニュースも同党の望む形でしか載せられない。
だから「中国は知的所有権を尊重している」とか「チベットの人権を重視している」などというデマ記事さえ、英文で米国の両大手新聞の一般読者の目に触れることになるのである。
日本の大手新聞が、もしロシアの政権与党の機関紙を自紙の一部として載せて読者に配ったらどうだろう。
いや、日本の大手紙が日本の政党の機関紙を織り込みにして発行した場合を想像してもよい。報道機関の自主性を捨てる行為として広く糾弾されるだろう。
まして中国共産党はそもそも報道や言論の自由を否定する独裁政党である。だが、米国の大手紙はその中国共産党の英字新聞を自紙の中に織り込んで堂々と売っているのだ。
米国のジャーナリズムといえば、不偏不党を全世界に向けて誇らしげにうたってきた伝統があったのではないのか。それがいつのまにこんなゆがんだ慣行に走るようになったのか。
その点への批判は、当然ながら米国内でもはっきりと表明されている。
ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズが中国共産党機関紙の内容を、いかに「広告」とはいえそっくり載せることは、米国メディア界内外でも頻繁に非難されてきた。
例えばアトランティック誌ジェームズ・ファローズ記者は次のように皮肉をこめて書いていた。
ファローズ記者といえば、かつて日米貿易摩擦の時代には日本の政治経済システムを厳しく批判する「日本叩き」の先鋒としても知られていた。(つづく)
杜父魚文庫

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