今朝の産経政治面に、民主党の松井孝治副幹事長へのインタビューに基づく「単刀直言 制御不能だった鳩山氏」という記事が載っていました。この中で、松井氏の次の言葉には少し説明を加えた方が親切かと感じたのでそうします。松井氏は、「一点突破、全面展開」を口癖とする菅直人首相の政治手法について以下のように述べています。
《鳩山さんの後を継いだ菅直人首相も消費税増税を唐突に取り上げ、22年の参院選で敗れて衆参のねじれ状態を作ってしまった。菅さんは財務相を経験しているので、「財務省のいいなりになった」という人もいるが、それは違う。
菅さんが鳩山内閣の副総理のときによく言っていたのは「沖縄問題をより強いメッセージで上書きしないといけない」ということ。普天間問題で膠着状態に陥った鳩山政権を政治的に局面転換する材料として消費税増税を使ったという側面はあったと思う》
……これを読んで、私はさすが松井氏は役人出身だけあって、言葉の言い換えが上手だなあ、ものは言いようだなあと感心しました。要は菅氏は、鳩山氏の「最低でも県外」「トラスト・ミー」で身動きがとれなくなった米軍普天間飛行場の移設問題から国民の目をそらせるため、別の大きなテーマとして消費税増税問題を持ち出したのであって、財務省の言いなりだったわけではないという主張です。
で、このやり方については、鳩山由紀夫元首相自身が昨年7月12日付の同じ「単刀直言」欄で、次のようにあけすけに語っています。鳩山氏は今さら言うまでもなく空前絶後の「鳩山の前に鳩山なし、鳩山の後に鳩山なし」とでも言うべきルーピーさんですが、時折ふと正気に戻るのか、妙に客観的な正しいことも口走ります。このときも、菅氏に向けた視線は冷静かつ適切で、私も「うんうん、そうだな」と頷ける内容でした。
《菅直人さんは、私が首相のときに副総理として、何度も「厳しい局面に立たされたら、別の大きなテーマを示せば、そちらに国民の目が向いて局面を打開できるんだ」と進言してきました。(米軍)普天間飛行場移設問題で危機に陥ってるときにも「消費税増税を言え」と働きかけました。私は「言えない」と答えました。
それで、菅さんは自分が首相になったときに消費税増税を持ち出し、結果として参院選に負けました。
今も同じなのか、思い付きのように別の話をすっと作るのは上手です。消費税やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、「脱原発」もそう。しかし、常に大きな本道を見ようとしない。政治はパフォーマンスではないのです》
松井氏の今回の言葉も、こうして補助線を引くともともとの意味がよく分かるかなと思い、蛇足ながら補足してみた次第です。つまり、今回、野田佳彦首相が「命を懸ける」と耳にたこができるほど繰り返して取り組んだ消費税増税も、最初はただの「目くらまし政策」だったというわけです。
逆に言うと、菅氏には普天間問題に真剣に取り組む考えなんか、これっぽっちもなかったということでしょう。現に副総理時代には、沖縄県民を同胞とも思わない「沖縄独立論」まで唱えていたわけですから。
そして、菅氏がいま「一点突破」の材料として利用しているのが「脱原発」という大きなテーマであるのですね。これさえ言い続ければ、自分とその政権が犯してきた数知れない失策は覆い隠せるし、苦しい局面を打開できると。自らの施政方針演説で、原発海外輸出の有能な「セールスマン」を自称していた菅氏がいま、まるで原発反対が数十年来の持論であるかのように振る舞うのも、つまるところそういうわけでしょう。
そして、ある種の俳優は、自分が演じている対象になりきり、当初の意図も演出も忘れて役に没入すると言いますから、当人も現在はすっかりその気なんでしょう。もともと記憶力は弱そうだし。全国注視の中、東京18区の有権者の民度が問われる日が、「近いうち」に訪れるのを願ってやみません。
杜父魚文庫
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