10760 書評「中国 真の権力エリート」  宮崎正弘

赤い壁の向こう側、情報機関の闇に突入したルポの鮮烈さ。取材妨害、尾行、電話切断、拘束されること十数回の強者記者が描く黒い中国。
 
<<野口東秀『中国 真の権力エリート』(新潮社)>>
久しぶりに一気に読んだ中国モノ。締め切りの原稿のこと、脳裏から数時間ほど消えた。午後一杯、お茶を一杯飲んだだけ、四時間で読み終わった。評者(宮崎)、速読には自信があるが、それでもみっちり四時間が必要だった理由は、内容がぎっしり、精度高い消息筋の話の整合性、しかも全部が必要な情報であり、克つ時宜をえたトピックに集中していることである。
本書は、いまの日本人が本当に知りたい中国の中枢の出来事、その仕組みを追求したものであり、読めば読むほどに中国人のホンネと建て前の使い分け、その義侠心。その打算と実利だけを執拗に希求する、自制心なき欲望を理解できる。
野口東秀氏は、つい先日まで産経新聞北京総局にいた。産経ほど、じつは中国の政治、軍事情報でスクープを飛ばすメディアはない。他の新聞が面倒くさがって取材にも行かない場所へ、命がけで潜り込み、張り込み、尾行、盗聴、取材妨害をはねのけて、ときには変装して現場へ潜り込む記者魂がある。
だから権力中枢に食い込み、ときにとてつもないスクープが獲れる。その昔、柴田穂氏が北京から次々と危険を顧みずにスクープを送ってきた。柴田さんは産経の北京支局長だった。文革時代、まっさきに国外追放になった。後年、菊池寛賞受賞。
帰国後に知り合った評者は、おりから出版社で企画室長をしていたので、早速、本を一冊作ってもらった。爾来、柴田さんとは、よく飲みに行った。銀座にも行った。新宿ではお互いが知る前から、同じ店に通っていたことも、あとで知った。カラオケが得意で、演歌からニュー・ミュージックまでこなした。
産経が北京に総局をだしたのは、随分と他社に遅れたが、台北支局はそのままだった。それまで、日本のメディアで台北に特派員をおいていたのは産経だけだった。ほかのメディアは香港特派員をつねに台北へ『出張』させるシステムで対応していた。
産経が北京を「総局」、台北が「支局」という位置づけで中国常駐が認められるや、初代古森義久総局長についで伊藤正氏が北京に赴く。伊藤さんは共同通信時代を含めて中国が長く、「北京大老」というニックネームが記者仲間からついていた。近年は大作『トウ小平秘録』を著された。
さて前置きが長くなったのは理由がある。
こうした産経の伝統を受け継いだ、しかも『北京大老』の門下生たちが、随分と論壇を賑わすようになったことだ。
福島香織さんは、女性特派員第一号。帰国後、『中国の女』(文藝春秋)を書かれて、この中国女性の内部へ突っ込んだ取材は斯界の評判を取った。彼女はいま、中国の暗部、臓器売買市場に挑む。
矢板明夫氏は、『史上最弱皇帝 習近平』(文藝春秋)を出されて、はじめて習の家族、生まれ故郷、幼友達やキッチンキャビネットに挑んだ。この作品は今年度の樫山賞に輝いた。
 
そして野口東秀氏の登場。しかも従来の分野を飛び越えて、権力中枢、つまり国家安全部、軍の情報部の内部に飛び込んだのだ。人脈を築きあげるまでの苦労話、酒の飲み方、贈り物の選別、密会の方法、デジタルカメラからデータを抜き取る方法、尾行をまくノウハウ、それでも野口記者は十数回も公安に拘束され、大事な写真を消された。
なぜ危険を顧みずに軍の中枢に迫るのか。
「中国では歴史的に軍を握る者が権力を握る。そして公安を含む諜報・治安機関が中国共産党の支配を維持する権力基盤であり、最後の後ろ盾となる」
ところが日本の政治家も外務省も『諜報』のチの字も知らず、諜報の伝統ある中国の政治家と会うのだから、バカ扱いをうけるのも当然だろう。
野口さんと親しくなったトップクラスの軍の高官が言った。「日本は一言で言えば戦略がない。小学生なみだ。
温家宝は「中国共産党最大のリスクは腐敗だ」と危機感をあらわにした。「中国では人口の0・4パーセントが冨の70パーセントを独占する」となれば不平不満が噴出する。野口記者は北京の直訴村へも何回も足を運んで取材し、かれを見張る「公安」に完全に顔を覚えられた。
ある時はウィグル自治区へ飛んで、騒乱の巷、血の海の弾圧現場に立ち、ある時はチベットの村へ潜入し、その少数民族への弾圧の凄惨さを目撃し、四川省地震では真っ先に現場へ飛んで、核施設へ潜り込もうとした。一番凄惨だった北川県の震源地にも外国人記者としては初めて入った。
他方、国家公安部の「黒色収入」(賄賂)は『司法』への圧力にあった。裁判長を買収する「相場」があり、女性を接待させたり、あるいは側女を期間をきめて契約し提供したり、その上で120万元とか、日本円で200万円とかの相場が決められていく。司法に指示をだすのは党であり、判決を左右する。これは「介入」ではなく「指導」と呼ばれる。
こうした中国の「闇」は以前から知られてはいたが、現実に内部の人間と接触し、確実な情報関係の人々のなかに飛び込んで、その野望と、そのホンネ、その輻輳した人脈と、その黒いシステムを抉った作品は久しぶりだった。
(読者の声)中国では日本人が襲われる事件がまだ続いているようで、上海では11日に日系企業の日本人4人と中国人1人が中国人グループに殴る蹴るの暴行をうけたという。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20121015-00000048-nnn-int
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2012101500614
時事の記事によると、ビール瓶を投げつけられたりしたようですが、昭和30年代の映画かよ、と言いたくなります。日本に50年は遅れているというのは本当ですね。
そんな中国の「反日」を茶化してみせるのがビートたけし。「壊れにくい」だろうと思って買ったのに、「壊されやすい」ってんじゃ笑うに笑えないよな。中国各地で反日デモが起こって、日本車がボコボコに壊されまくったって話だけどさ。
笑っちまうのが、それで「日本車用ステッカー」がバカ売れしてるって話でさ。「中国愛してる」とか「日本車だけど中国製です」とか、「この車で尖閣諸島を取り返してくる!」とか書いてあるシールを車に貼って見逃してもらおうっていうんだけどね。もう涙ぐましい話だよな。
ニッポン人が向こうをはって「反中デモ」をやろうとしたって大変だぜ。「今日から私はラーメンと餃子を食べません」って宣言したって困るのはニッポン人のほうだろ(笑)。
抗議のために店中に餃子をぶちまけたって、「何考えてるんですかお客さん」って店員に怒られるだけだしな。天津丼を箸でグチャグチャにかき回したって天津の市民はちっとも怒ってくれないだろうし、広東麺を火にかけたってアツアツで美味しくなっちゃうだけというね。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/entertainment/celebrity/598507/
▼上海―佐賀、上海―高松の航空券はたったの一円!
中国人・韓国人の気質とはまったく違う、自己を相対化し笑い飛ばしてしまう日本人のユーモアのセンス。岡田英弘氏の著書にあったのですが、中国人のユーモアはとことん下品だといいます。中国人にとってはメンツが何より大事で諧謔の精神とは程遠いようです。
そんな中国・上海、格安航空の「春秋航空」のウェブサイトは反日デモ以来日本語での予約ができなくなっていました。先日(15日)、久々にアクセスしたところ日本語での予約も復活。なにより目を引くのが「1円」プロモーション。
http://www.china-sss.com/jp
佐賀~上海、高松~上海の運賃が1円、税・燃油込みで往復13000円弱。各便50席限定、といいながらほとんどの便で「1円」チケットが取れます。
反日デモ以前ならたちまち売り切れだったでしょう。よほど搭乗率が下がっているのか、ものは試しで乗ってみようかと思ったのですが、首都圏から佐賀・高松までの運賃のほうが高く付く。
それならと茨城~上海を検索すると11月初めの連休期間でも往復2万4千円弱と格安、他社の半額です。思わず予約を入れてしまいました。茨城空港へのアクセスも東京駅からバスで500円(航空券あり)・1000円(航空券なし)と格安。エアバスA-320の180座席配置、シートピッチは28インチと格安の標準ですが現在のシートは10年前と比べると薄型ですからそれほど狭く感じることはないのかもしれません。
格安航空会社の成田就航が増えていますが、国内線での定時運行率は70%台とまだまだ不安定。
それでもエアアジア・ジャパンはソウル便を開設、TVのニュースでも大きく取り上げていました。検索すると往復で2万円程度、ソウルの日本大使館前の慰安婦像でも見てこようかと思ったものの、韓国はやはり抵抗があります。台湾だったら喜んで行くのに、と検索したらシンガポール航空系のスクートという会社が成田~台北~シンガポール便を10月末から開設、まったく知りませんでした。
http://www.flyscoot.com/index.php/ja/
成田11:50~台北14:35、台北06:50~成田10:40というスケジュール。機材は格安らしからぬB777-200、2クラス制でエコノミーはシートピッチ31インチと米系大手と変わらず、ただし横一列 3-4-3の高密度配置(タイ航空、エミレーツ、日本国内線も同様)ですから通路側でも圧迫感があると思います。
上級クラスはスクートビズ(ScootBiz)、38インチ(96cm)ピッチでシート幅も56センチとゆったり。現在プロモーション中でエコノミーなら往復1万円ほど。向かい風で飛行時間のかかる成田発をスクートビズ(食事付き)にしても1万5千円程度。こちらもさっそく予約を入れました。
航空自由化は日台間でも進んでおり、台湾の復興航空(トランスアジア航空)は日本路線を一挙に5路線開設。
http://airportnews.jp/headline/1026/
北海道4路線+那覇、既設の関空路線と合わせて6路線。以前からチャーター便を飛ばしていた路線ですが、台湾人に人気の北海道は新千歳・函館・旭川・釧路と要所を抑えています。
北海道の外国人観光客の3分の1が台湾人だといいますから納得。
http://mainichi.jp/area/hokkaido/news/20120905ddlk01020250000c.html
日本の観光業界は中国人観光客が激減した今こそ、利幅が薄くホテルの備品を盗む中国人団体観光客よりも台湾人・香港人・シンガポール人+中流層の急速な拡大を見せる東南アジア諸国などの高所得かつ常識を持った人々向けの高付加価値宿泊プランを考えるべきではないでしょうか。(PB生、千葉)
杜父魚文庫

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