伊藤正氏(元産経新聞中国総局長)から「鄧小平秘録 上下二巻」(文春文庫)を贈って頂いた。共同通信社時代から数えると、伊藤氏の中国取材は四〇年になる。
伊藤氏が日本のチャイナ・ウオッチャーの第一人者であることは間違いない。
「鄧小平秘録」は産経新聞に六部構成で連載され、二〇〇九年に日本記者クラブ賞を受賞した。二〇〇八年に産経新聞から刊行された「鄧小平秘録 上下二巻」を、こんど文春文庫にして第一部から第三部までをまとめて発刊したことになる。
第一部 天安門事件
第二部 南巡講話・・・保守派支配のなかで
第三部 文化大革命・・中央復帰の執念
紙面では読んでいたが、文庫本になってみると、あらためて教えられることが多い。
文庫版あとがきで、伊藤氏は「鄧小平氏の足跡をたどると、”豊かで強大な中国”の復興を生涯の目標として追求してきたことが分かる。改革・開放はそれを実現する手段だった」
「鄧小平氏は改革・開放の開始直後から、官僚の腐敗を警戒し、警告してきたが、腐敗は深刻化、規模は大きくその手口も巧妙化するばかりだ」
「手段を選ばず、世界中の資源と市場をあさり、カネ儲けに走る中国の姿は、鄧小平後において一層醜さを増し、膨張を続ける軍事力とともに、国際社会全体の懸念を招きつつある」と断じた。
そして「現在の中国は、鄧小平氏が理想とした社会とはかけ離れているようにみえる」と述べている。あえて「鄧小平秘録」の文庫版を発刊したのも、いまの中国をみてチャイナ・ウオッチャーとしての警告を発する意図があったのかもしれない。
杜父魚文庫
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