10905 お風呂屋さんが消えていく   平井修一

間もなく4歳になる孫娘は、絵本の「おふろやさん」がとても気に入っている。興味津々の様子なので、それなら1歳4か月の孫息子とともに体験させてやろうと近所の風呂屋に問い合わせると、「オムツの取れない赤ち7ゃんは入れません」という。
あれこれ調べたら車で20分ほどの風呂屋が受け入れてくれるというので、娘たちと孫で出かけていった。孫娘にとっては初めての体験だから一生記憶に残るかもしれないが、帰宅後に感想を聞くと「楽しかった」のひと言だけだった。
昭和30年代は自家風呂(内風呂)のない家は多かったから風呂屋は赤ちゃんの泣き声で満ちていたものである。風呂の中で粗相をすることも多かったが、桶ですくって流していたのだろう。
相身互いだから皆我慢をしていた。まだ濾過機がない頃だったから仕舞湯の頃の湯船はずいぶんと汚
れていたものである。
厚生労働省「衛生行政報告例」によると、公営と私営の普通浴場を合計した「一般公衆浴場」は昭和55年に15,696施設を数えたが、平成19年度には6,009施設と減少が著しい。19年度の営業廃止は1,633施設もあった。
内風呂の普及に加えて、経営者の高齢化、燃料代の高騰等、経営環境の悪化が営業廃止に拍車をかけている。やがては公衆浴場もレッドブック入りになるのだろう。
ところで風呂なし(トイレ共同)というアパート、住宅は都市部では結構あるようだ。東京都では住宅の9%ほどは風呂がないというから、風呂屋とかコインシャワーの需要は依然としてあるのである。だから風呂屋も数を減らしつつも細々と続くのだろう。
蛇足ながら東京の入浴料は大人(12歳以上)450円、中人(6歳以上12歳未満の小学生)180円、小人(6歳未満の未就学児)80円。夫婦と小学生2人なら1260円、月に15回利用すれば18,900円である。結構な負担だから、それなら風呂付の2LDKに移ろうということになるのだろう。
苦学生だった友は結婚して子供をもうけても永らく風呂なしアパートで暮らしていたが、2LDKに移って初めて内風呂に入った時は感動したという。風呂屋もそれなりに風情はあるが、風呂屋通いから解放されて好きな時に入浴できるのは人生の痛快事ではあるだろう。
孫娘はやがて母親になり、「ママが小さい頃はお風呂屋さんというのがあったのよ、とても賑やかで楽しかったわ」と子供に語るのかもしれない。(頂門の一針)
杜父魚文庫

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