10953 いま、何故”毛沢東”なのか?  古澤襄

朝の日課となった杜父魚ブログの読者傾向を調査して驚いた。午前四時現在、まだ五〇〇本ぐらいの記事数なのだが、渡部亮次郎氏の「遺体展示の毛沢東」がトップに躍り出ている。2009年1月6日の記事。およそ四年前の記事である。
http://blog.kajika.net/?search=%B0%E4%C2%CE%C5%B8%BC%A8%A4%CE%CC%D3%C2%F4%C5%EC
いま、何故”毛沢東”なのか?
中国が紅衛兵で荒れ狂った当時、私は外務省の担当記者でいた。アジア局・岡田参事官の中国観が面白いので、よく遊びに行った。
岡田晃・・・兄は安保国会の爆弾質問で知られた社会党の岡田春夫。その弟が外務省にいると聞いて、最初は興味本位で岡田参事官と会った。
その経歴がまた異色。東亜同文書院から東北帝国大学文学部卒業後、外務省に入省し、中華民国に駐在している。中国語に堪能で、中華人民共和国との国交樹立に一貫して積極的だった人物。
香港総領事時代に米中接近の兆候を察知して本省に報告していた。(岡田晃著「水鳥外交秘話」1983 中央公論社)。
「権力闘争だから紅衛兵運動が終息すれば、毛沢東は思い切った右寄り路線になりますよ」と岡田氏はこともなげに言う。その洞察力に魅せられた。
中ソ対立の危機の中で、毛沢東は米中融和を武器にして立ち向かうというのが、岡田氏の見立てだった。成る程、そういう見立てもあるのかと思った。先行きが見通せない中ソ対立の時代に、このような独断的な見立てができる外務省のチャイナ・スクールは少ない。
毛沢東・・・中国共産党の育ての親。いまでも中国内では毛沢東信仰が根強く残っている。毛沢東後の改革・開放政策で鄧小平、江沢民、胡錦濤時代を経て、中国は世界第二の経済大国になったが、十三億の民の中で経済躍進の恩恵を受けたのは一握りの特権階級でしかない。
重慶市党委員会書記だった薄熙来(ポー・シーライ)は、低所得者層に根強い人気がある毛沢東の政治路線に帰る「共同富裕」のスローガンを掲げて格差是正や平等・公平をアピールした。毛沢東時代の革命歌を歌わせる政治キャンペーン「唱紅」運動も展開している。
胡錦濤国家主席は、薄熙来を最大の敵とみなして失脚させた。だが、中国国内の貧富格差は広がる一方である。薄熙来は失脚したが、毛沢東主義は依然として低所得者層に根強い人気がある。それが爆発することも予想される。
それが渡部亮次郎氏の「遺体展示の毛沢東」が読まれている所以ではないか。
杜父魚文庫

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