11080 党首討論は「直球」で安倍が優勢   杉浦正章

解散以来2大政党党首の論戦を観察してきたが、様相は「理屈」の首相・野田佳彦に対して「実戦」の自民党総裁・安倍晋三の立場が浮き彫りで、実戦論の安倍がリードし始めていることが分かる。
その証拠に日銀による国債買いオペ拡大発言は株価を解散直後の8661円から9366円に引き上げ、円相場も79・66円から82・45円へ
と円安に動いた。野田は「口先介入」と批判するが、これまで口先介入すら出来なかった民主党政権の無策ぶりが却って露わになった。
安倍が「発表してから円は下がり、株価は上がった。『勝負あった』だ」と自賛するのも無理はない。折からのナショナリズム台頭の風潮に安倍の「国防軍」もネットではやされている。街頭演説も安倍には聴衆が集まって沸くが、野田にはヤジが飛んでいる。
面白いのは野田の民・自党首討論の呼びかけに安倍が「インターネット番組でやろう」と回答したことだ。野田は「もっと幅広い人たちに見てもらった方がいい」と渋っているが、安倍の狙いは“ネット選挙”にある。いまネットでは「ネトウヨ」でなければ人でないような状況だ。
ネット半可通のために解説すると、ネトウヨとはネット右翼のことで右翼的、保守的、国粋主義的な性向を持つ若者たちをさす。そのネトウヨが安倍や日本維新の会代表・石原慎太郎をはやしにはやしているのだ。そのネット番組でやろうというのは、安倍が野田を自分の土俵に引き込もうという意図があるのだ。
ネトウヨなど視聴者の書き込みもすぐに画面に掲載されるから野田には不利になる。野田は14日の党首討論で勝ったのに味を占めて、これを再現しようとしているが、次回はどんな形式になるにせよまず負ける。
 
両党首の主張だが、テレビ朝日が25日野田と安倍の出演による好番組を組んだ。それぞれ別々の出演だが実態は時間差党首討論の形で面白かった。この番組でも安倍が指摘したが、安倍の「建設国債日銀直接引き受け」発言は、経済を知らない政治記者の誤報であったことだ。
別のTV番組で東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋が暴露したところによると、「熊本まで安倍に同行した政治部記者が安倍の発言を日銀が直接引き受けることなのか、通常の買いオペレーションのことか分からないまま、『直接引き受け』にしてしまった」のだという。
東京新聞は22日付の社説でも取り上げ「安倍総裁は日銀による国債の買いオペ拡大も求めた。これがメディアで『日銀の国債直接引き受け』と推測交じりに報じられ『財政赤字を日銀が賄うのか』という極端な議論に発展した」と誤報を指摘している。
まさに理路整然と反論して「ウルトラCとか禁じ手を使うことは許されない」と批判した野田や、日銀総裁・白川方明の「現実的でない」「悪影響が大きい」「先進国はどこも行っていない」という鬼の首を取ったような反論は、誤報に踊らされたことになる。あとになって新聞は「安倍総裁が軌道修正した」と安倍のせいにしているが、誤報を誤報と認めないのはフェアでない。
小生は「経済を知らない政治記者は駄目だ」と唱えてきたが、その通りとなった。選挙への影響が強いだけに問題の大誤報だ。
さらなる問題は、野田の反論も白川の反論もその“資格”がないことだ。なぜなら民主党政権3年3か月の間で、政治家の発言が株価を引き上げ、円安を誘導したことはまずない。
素人集団で自分が打つべき手も打てず、手をこまねいて国家財政と景気をここまで落ち込ませたことに対する責任が問われていることが分かっていない。
安倍が野田の反論を聞いて「びっくりした。こういう認識で政権運営をやっていたから、ここまで惨憺(さんさん)たる結果となった」と嘆いたとおりだ。白川もこれまでデフレ脱却策にすべて失敗し続けた日銀総裁としては、誤報に基づいたスジ論を言う前に、自らの進退をどうするかが先であろう。自民党政権になれば当然責任を問われるだろうし、その前に自ら辞表を提出した方がよい。
市場は安倍発言を歓迎しており、このままいけば当然選挙情勢にもプラスに作用するだろう。14日の党首討論の時は野田の解散の“奇襲攻撃”にあって、おたおたした安倍だが、党首討論に向けて態勢を完全に立て直したことが分かる。
外交・安保では「国防軍」構想を打ち出した。野田の批判に対して安倍は「野田さんの攻撃はかつての社会党党首が極端な例を持ち出して不安をあおったのと同じだ」と指摘するとともに、「自衛隊が軍隊でないというのは詭弁であり、軍隊としてちゃんと認め交戦の際は交戦規程に沿って行動し、シビリアンコントロールも憲法に明記する」と明言した。要するに石原の極右国粋主義まではいかないが、正常なる右傾化路線の公然たる主張である。
安倍は尖閣問題で台頭しているナショナリズムの風潮を明らかに意識してとらえている。まさに右傾化で“勝負”に出ている姿であろう。
ネットではヤフーがインターネット利用者に対して、「国防軍の保持」の賛否を調査したところ、24日午後4時現在で「賛成」がなんと72%と、「反対」の25%を大きく上回った。若年層のナショナリズム、そして不況にあえぐ中小企業の悲鳴に似た声を安倍が吸い上げる可能性が高い。
安倍による右寄りの“直球”は、民主党をたじろがせている。加えてこの自・民2大政党の論議が党首討論の形で有権者の耳目を集めれば、最大の収穫は石原や橋下徹らのポピュリズムの存在の影を薄くすることだ。それだけでも2大政党の党首討論はやる意義がある。(頂門の一針)
杜父魚文庫

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