かくて白虎隊隊長の汚名は回復された。芝五郎を産んだ会津の藩士たちは如何なる教育環境に育ったのか。
中村彰彦『幕末会津の女たち、男たちーー山本八重よ銃をとれ』(文藝春秋)
来年のNHK大河ドラマは会津が舞台である。
幕末維新のおりに会津藩士を襲った悲劇は多く語り継がれた。薩長の維新の志士を主人公とした小説、舞台、ドラマは夥しいが、ようやく近年、会津の志士らのドラマ化が具体化し、最近になると洪水のようになった。
一方で新撰組の近藤勇、土方歳三らも小説やテレビの主人公となって、世俗的にも名誉回復がなされた。白虎隊もよく知られるようになったが、会津藩の悲劇の奥底には、まだまだ埋もれてしまった女たち、男たちがいる。
『明治新撰組』でデビュー以来、中村彰彦が挑んできたのは、歴史に埋もれて忘れかけて人々の発掘と、再評価である。
とくに徳川幕府の初期を四半世紀にわたって事実上「宰相」の位置にいたのが保科正之(松平会津初代)である。四世紀近い風雪を越えて、中村は保科正之をたぐい稀な名君だったことを語り継いだ。
会津藩の悲劇の影で獅子奮迅のはたらきをした佐川官兵衛も、中村が『鬼官兵衛烈風録』を世に出すまで、まったく知られなかった。いまは熊本を中心に佐川官兵衛顕彰会があり、毎年のように記念行事が行われている。阿蘇は佐川が壮烈な戦死を遂げた場所である。
本書は、こうした流れの延長線上にあるもので、山本八重が重厚に出てくる。
町野主水も山川大蔵も芝五郎も登場するが、西郷(家老)一族二十一人の自刃という悲劇や、神保雪子の存在などは殆ど知られていないだろう。
本書は『オール読み物』に発表された六つの作品と他の三編から編まれているが、白眉は白虎隊自刃から140年後の真実だ。
これまでの風説を覆す、多くの新事実がさりげなく語られている。隊士のその後、あの隊長のその後が、後世に語り継がれた物語とは異なった展開であった事実も、中村の発掘作業から明らかになった。
何が真実だったかは、本書を手にとって頂きたい。
杜父魚文庫
11083 書評『幕末会津の女たち、男たちーー山本八重よ銃をとれ』 宮崎正弘

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