11214 ミサイル発射が示した米国の対北朝鮮戦略の限界   古澤襄

ワシントン・ロイターは、「米国の北朝鮮問題への取り組みは、中国の抵抗により複雑化している」と指摘している。ありていに言えば、「北朝鮮がロケット発射に成功したことは、米国に新たな苦難をもたらした」ことになる。
下院情報委員会のロジャーズ委員長(共和党)はインタビューで「今回の事態は、北朝鮮に関する政策や姿勢を変える根拠となる。まず必要とわたしが考えるのは、中国との真剣な協議だ」と語った。
しかし、そうした米中対話は現時点であまり期待できない。
北朝鮮はミサイル・核兵器能力を徐々に向上させている。「これまで通りの効果のないアプローチで今回の発射に対応するのは賢明でなく、現実的でないと思える」というのだが、具体的な展望がないまま”手詰まり観”が隠せない。
<[ワシントン 12日 ロイター]北朝鮮がロケット発射に成功したことは、米国に新たな苦難をもたらした。アナリストや当局者は、米国の「恥と制裁」アプローチをもってしても、北朝鮮の核・ミサイル技術開発を止められなかったことを今回の発射が鮮明にしたと指摘する。
オバマ政権は、12日の発射を「非常に挑発的な行為」で、報いを受けることになると非難し、国連安全保障理事会(安保理)で対北朝鮮制裁強化に向けた調整に着手した。
当局者は、米国が現行の北朝鮮への制裁を強化したり、北朝鮮高官の移動禁止や資産凍結、貨物検査の強化を目指すなら、北朝鮮の唯一の同盟国である中国からより強い支持を取り付けることが喫緊の課題と指摘する。
今回の発射で北朝鮮が核開発プログラムを米西海岸も射程圏内に置くミサイル技術に結びつけていることが明らかになった。それに直面した米国にとって、それ以外の政策オプションは限られているように見える。
ワシントンのシンクタンク、米戦略国際問題研究所(CSIS)の北朝鮮問題専門家ビクター・チャ氏は、ロケット発射後に出したリポートで「米国では、こういうテストを、技術の遅れた国がまた愚かな試みをしようとしていると見くびるムードがこれまであった」としたうえで
「問題は、北朝鮮が新たな戦略的脅威をもたらしたことを踏まえ、米国が別の策を講じるのか、それとも北朝鮮が、米本土に本格的な核の脅威をもたらすという次の段階に入るのを座して待つのか、だ」と指摘した。
<不安、後退、失敗>
米国の北朝鮮問題への取り組みは、中国の抵抗により複雑化している、と米当局者は指摘する。
ある米政府高官は匿名を条件に「民主党あるいは共和党の政権が数十年にわたりこの問題に取り組んできたが、適切な解決策は見つけられないでいる。理由としては、これまで主要な関係者が結束できなかったことが大きい」と述べた。
米当局者らは、オバマ政権がこれまで何度も北朝鮮との関係改善を模索したと強調する。今年初め、米朝は、米国が北朝鮮に食料支援をする代わりに北朝鮮が核兵器開発につながる主要なプログラムを凍結するという枠組みで合意した。しかし、この合意は、北朝鮮が4月に国際社会の反対を押し切ってミサイル発射を強行したことで無効になった。

北朝鮮は、ロケット発射は平和利用目的の宇宙プログラムの一環と説明しているが、米国やその同盟国は、安保理決議で禁止されている弾道ミサイル技術の実験に等しいと指摘している。
アナリストからは、北朝鮮が米国の直接的脅威になるのは、まだかなり先との見方が出ている。しかし、日本や韓国など米国の主要な同盟国が懸念を強めており、今後ワシントンには新たな戦略を見つける圧力が強まるとみられる。
ノートルダム大学の北朝鮮アナリスト、ジョージ・ロペス氏は「ロケットを発射して、9分超飛行させる能力は、シアトル攻撃に結び付く可能性は低いと思われる。だが、日本やフィリピンははるかに神経質になっている」と指摘した。
<武装か支援か>
米国務省のヌーランド報道官は、北朝鮮に関する次のステップについて、アジアの主要同盟国や中国とも協議していると説明した。しかし、北朝鮮の金正恩第1書記との予備的協議は現段階で求めていないことを示唆した。
ヌーランド報道官は「それは彼らを間違った方向に導く」と述べ「彼は自らの時間とカネを使ってミサイルを発射するか、自国民を食べさせることができる。しかし、両方はできない」と語った。
12日の発射を受け、米議会では、中国に北朝鮮に対する圧力をかけるよう求める声や、ミサイル防衛体制の見直し論が台頭した。

下院情報委員会のロジャーズ委員長(共和党)はインタビューで「今回の事態は、北朝鮮に関する政策や姿勢を変える根拠となる。まず必要とわたしが考えるのは、中国との真剣な協議だ」と語った。
しかし、そうした米中対話は現時点であまり期待できない。12日、安保理は北朝鮮への新たな制裁について協議したが、ある外交筋によると、米国と中国の間で最善策をめぐり激しいやり取りがあった。「『ばかげている』という言葉が複数回発せられた」という。
アナリストは、ワシントンが結局、北朝鮮の核問題を協議する6カ国協議に頼らざるを得ないとみる。米国、中国、北朝鮮、日本、韓国、ロシアの6カ国による協議は、2008年に決裂し、以来開催されていないが、それ以外に有効な道筋はなさそうだ、と指摘している。
非武装を訴える団体、軍備管理協会(ACA)のダリル・キンボール氏は「北朝鮮は、今回の発射で、恥と制裁戦略に効果がないことを示した。北朝鮮はミサイル・核兵器能力を徐々に向上させている。これまで通りの効果のないアプローチで今回の発射に対応するのは賢明でなく、現実的でないと思える」と述べた。(ロイター)
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