日本の衆院選で与党の民主党が敗れるとまた首相が交代する。珍しく韓国でも同じ時期(19日投開票)に大統領選が行われるが、5年任期の李明博(イ・ミョンバク)大統領の任期切れは来年2月24日。李大統領はこれまで日本の首相では福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦首相の5人に相対してきた。
退任直前で6人目とは会うことはないが、それにしても入れ代わり立ち代わり日本の指導者の交代は激しすぎる。在韓ビジネスマンたちと日本の政局が話題になると、決まって出る話は「誰になってもいいからとにかく長くやってほしいねえ…」だ。
韓国で歴代日本の首相で今でも人気があって名前が知られているのは「ナカソネ」と「コイズミ」だが、その理由には在任期間が長かったということもある。
国際的に首脳外交が重要になっているだけに、会う度に日本の首脳の顔が違っていては積み重ねによる信頼構築などできない。
今回、日韓で同時に新指導者選出となったが、いずれも選挙戦は終盤で国民の関心は高まっている。しかし、同じ時期になったため双方の雰囲気の違いが分かって興味深い。
違いは何といっても議院内閣制と大統領制の違いだ。韓国では大統領を国民の直接投票で選ぶためコトが分かりやすい。今回、日本の総選挙は政党数がきわめて多く、しかも首相は国会議員が国会で選ぶためどこかまどろっこしい。
日本に比べ韓国では、国民は政治や選挙あるいは権力に対し確実に“手触り感”がある。与野党1対1の対決で好みの新指導者を自分の一票で選ぶというのは快感だ。
「誰がいい?」「どちらにする?」だから話題にしやすい。盛り上がり方も当然、違う。日本の総選挙は各地域から多くの国会議員を選ぶが、大統領選は国民の関心が一騎打ちの候補者に“一点集中”するため興奮の度はまったく違う。
今回、韓国マスコミのインタビューで日本の総選挙との比較を聞かれるたびに「間接選挙の日本に比べ韓国がうらやましい。日本の政治や選挙には手触り感がない。選挙でも“韓流”を学びたい」などとヨイショしておいたが、これは制度上の違いだからどうしようもない?
たしか中曽根康弘元首相は若いころ首相を国民投票で選ぶ「首相公選制」を主張していたように思うが。
しかし政治に手触り感を求める国民は、大統領あるいは政権に問題があったり気にくわないことがあったりすると「直接モノ申す」という方式になる。韓国でデモが多いのはそのせいだ。そのデモもすぐ大統領官邸に押しかけようとする
5年前の大統領選で異例の票差で圧勝した李明博大統領も就任後、2、3カ月のうちに「米国産輸入牛肉を食べると狂牛病になる!」というデマ情報に扇動された大規模な反米・反政府デモに揺さぶられた。
韓国は「権力と民衆」の距離がすこぶる近い。だから人びとは議院内閣制のような“まどろっこしい政治”は肌に合わない。選挙を含め韓国政治は実にダイナミックだが「権力と民衆」の間に中間項がないため、調整がつかないと対立は限りなく激しくなる。そこで韓国では逆に議院内閣制への転換論がよく出る。「隣の庭の芝は青い」ということか。(産経)
杜父魚文庫
11224 大統領制に手触り感 ソウル 黒田勝弘

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