「脱原発」政党は軒並み敗北、再稼働へ
選挙結果は自民党がやる気になれば総裁・安倍晋三の右傾化路線で突っ走れることを意味する。同党が294議席と300議席に迫り、自公で325議席と320議席の3分の2を突破し、その補完勢力として日本維新の会の54議席が登場したことが意味することは、そういうことだ。
しかし安倍も留任の幹事長・石破茂も当面はドラスティックな動きは控え、“慣らし運転”に徹する構えだ。
内政では日銀法改正も含めた大胆な景気対策に全力を傾注して、超大型補正予算をまず1月の通常国会冒頭で成立させる。原発も亡国の「原発ゼロ」政党が軒並み敗北したことを受けて、安全なものから再稼働を進める。
外交ではまず民主党政権が毀損した日米安保体制の再構築に取り組む。安倍の1月訪米も視野に入れる。ただし自民294議席は、百家争鳴で党運営を極めて難しいものにし、公明党との連立も改憲や集団的自衛権確立を進めれば危うくなる危険を内包している。
総選挙結果を俯瞰(ふかん)すれば、小選挙区制特有の極端なぶれを示している。前回308議席を獲得した民主党が、その5分の1以下、選挙前の4分の1以下に激減、自民党が3倍増になったことが端的に物語る。
これは極端な政策の変更を招き、日本の政治を常に不安定な状況に置くことを意味する。中選挙区への回帰が不可欠であり、安倍は早期に第9次選挙制度審議会を発足させ、制度問題に取り組むべきだろう。
自公圧勝は参院のねじれを衆院の再可決でカバーできる体制を意味するが、これは憲政の常道からいってよほどの重要法案でもない限り禁じ手である。常には使うべきではない伝家の宝刀として温存すべきであろう。
ただし、日本維新の会が第3勢力として登場したことは自民党に新たな選択肢を与えることとなった。安倍が維新と連立を組むことは当面ありえないが、政策が一致すれば自公と維新で379議席に達しており、事実上の“大政翼賛政治”になり得る側面がある。
維新はその信条、保守路線から見て自民党の補完勢力としての役割を果たすことになりそうだが、代表・石原慎太郎の目指したキャスティングボートを握る構図にまでには至っていない。しかし、集団的自衛権の行使への立法措置など維新を活用すれば可能となる。
公明が反対しても自民と維新でも3分の2議席を上回ることが可能であり、やる気になれば安倍はその右傾化の信条の遂行が可能となった。
また民主は、半年後の参院選をにらんで野党色を強めるものとみられるが、税と社会保障の一体化などでの自公民路線が選挙後にも継続される可能性があり、何でも反対路線は取りにくい。
もっとも安倍は16日夜選挙結果について「有権者は自民党を100%信用してくれたわけではない。3年間の民主党政権の混乱に終止符を打ったのだ」と慎重な分析をしており、姿勢は圧勝で上づっていない。憲法改正についても「国民的議論が必要であり一歩一歩進む」と述べている。
石破も同様の考えを述べており、自民党は重心を低くして政権運営を進める可能性が強い。とりわけ先に安倍を病気にした参院のねじれは解消されておらず、自公では16人が足りない。
みんなの党など小政党を引き込めば過半数を維持できるが、ここはやはり民主党との部分連合を模索することが適切だ。参院民主党が分裂して自民と合流すれば別だ。
常に足かせとなってきた赤字国債発行法案は3党合意で本予算と一体処理を確認しているのも、安倍にとってはプラスの作用をもたらす。
総選挙の焦点であった原発の是非については、原発立地の39選挙区で自民党が数区を除いて圧倒的な勝利を収めており、石破が述べていたように安全を確認した原子炉から再稼働が行われるだろう。
自民圧勝に導いたのは民主党の体たらくへの批判に加えて尖閣、竹島、北方領土など領土問題における新事態が大きく作用した。
とりわけ尖閣問題での中国政府の“官製暴動”が、有権者の強い反発を招き、安倍、石破の右寄り路線と響き合ったことが決定的要因となった。しかし安倍が外交・安保で極右の石原と同様の路線をとることは、日中軍事衝突につながる危険を帯びており、慎重な対応が望まれる。
つまり安倍は石原と同様に尖閣に船だまりを作り公務員を常駐させると公言しているが、そのような措置を取れば軍事衝突に直結しうるからだ。
彼我の軍事力は海軍も空軍も日本が優勢であり、これに米軍が支援すれば紛争の段階なら圧倒的に勝つことが出来るが、勝っても日中関係が大きく壊れては無意味で国益と逆行することは言うまでもない。だいいち米国が中国を挑発するような行動には反対するだろう。
米国は議会も政府も尖閣への安保条約適用を表明している。先の領空侵犯に対しても中国をけん制する動きに出た。しかし、これは極東で戦争が発生することを望んでいないからこその対応であり、狙いは紛争を起こさないための対中けん制にあることを見誤ってはならない。
安倍は選挙後の最重要外交課題に日米関係の立て直しから取り組む方針を明らかにしている。
民主党政権が毀損した安保関係のすきに乗じて近隣諸国が領土で揺さぶりをかけてきていることは確かであり、日米関係再構築はすべてに優先されるべき課題だろう。安倍は1月にも訪米して大統領・オバマとの関係修復に臨むことになりそうだ。
安倍は尖閣問題であえて火中のクリを拾う必要は無いが、米軍への攻撃を阻止する集団的自衛権の行使を可能にすることは別問題だ。これは憲法解釈の問題であり、安倍も16日夜「憲法改正でなく解釈の変更でいく」と述べている。あくまで国内政治の問題であり、中国や北朝鮮が文句を言う筋合いでもあるまい。
自民党は国家安全保障基本法案を作り、集団的自衛権の行使を可能とする方針を公約に明記した。維新もこれに事実上まる乗りの公約を発表した。法案にするか安倍が解釈を変えると表明するかは、むしろ解釈変更の方が格段にやりやすい。
しかし来年の参院選挙までは勝って兜(かぶと)の緒を締める期間と心得て、急激な対処は控えるべきであろう。(頂門の一針)
杜父魚文庫
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