11284 「とりあえず自民しか」なんだよ  岩見隆夫

〈迷い票〉だった。早くから今回の支持政党がはっきりしていたわけではない。あれこれ考えたすえである。選挙戦の模様を眺めながら、党首たちのおしゃべりを比べながら、さらに言えば、政治の今後、この国の行方も念頭に置きながら、自民党に一票を投じた。メディアの事前予測にも多少影響されたかもしれない。
東海地方の某選挙区だが、結果は民主党候補が当選した。それはそれでいい。正直に言えば、私の票は確信票ではなかった。次回はまた変わる可能性ありだ。とりあえずの自民、である。
選挙戦の終盤、自民党の麻生太郎元首相が演説で、
「あちらこちら歩き回っているが、熱気が感じられない。追い風じゃないということだ。しかし、自民党には極めていい数字がでている。民主党がよっぽど悪い」
と話したのが印象に残っている。まったくそのとおり、と思いながら聞いた。追い風でないのに二九四議席は明らかにヘンだ。しかし、そうなってしまう。有権者のやるせない気持ち、わかってもらわないと困る。
さて、自民党支持の理由だが、ひと言で言えば、引き算である。まず、民主党を引いた。この際、三年前の夏、民主党に一票を入れた自己総括から始めなければならないだろう。
あの時も、自民党を引き算することから始まった。自民党政権の末期、まず後期高齢者医療制度に世間が猛反発し、〈宙に浮いた年金〉五千万件騒動に唖然とさせられたのだ。
民放のテレビ番組で、私が、「後期高齢者医療制度は断固反対だ」と発言すると、自民党の河野太郎さんに、
「それは感情論でしょ」と言われ、さらに私が、「感情ほど大事なものはないじゃないか」
と大人げない反論をしたことを覚えている。〈感情〉という言葉の行き違いだった。河野さんは、私の反対が政策論でなく感情論でしょ、と言いたい。私も後期の入り口だったから、それもあったかもしれない。だが、自民党という政党は、国民感情と別のところにいってしまった、という絶望感のようなものが先に立った。
自民がだめだから民主、というのは短絡的と言われるかもしれないが、ほかに選択肢がない。公明以下の中小政党に一票、という手もあるが、まずリーディング・パーティーを明確に、という切迫感が優先した。
ところが、民主党は野党の時はまだしも、政権与党として国を担う責任感覚と気概を欠いていることが次第に明白になる。とにかく、セコイのだ。
バラマキ政策で、バラマかれたいという国民、特に弱者の安直な依頼心を吸い寄せようとする。自律・自助によって社会を立て直さなければならない時に、大衆迎合に走る。民主はいったん野党に戻って、国の運営術と心構えについて初歩から鍛え直してもらうしかない。
 ◇第三極もやはり引き算 本格的な政界再編は…
次に第三極。テレビを見ていると、民主の野田佳彦さん、自民の安倍晋三さんについで未来の嘉田由紀子さんが画面に現れ、一席ぶつ。公示前勢力の順番だ。国会議員でない一地方知事、私たちに予備知識のほとんどない女性が突然、国政第三党の党首に躍り出る。あまり有権者をなめてはいけない。
民主のバラマキ手口とどこか似ている。目くらましで票を釣ろうとしているような。それで、第三極全体のイメージがダウンした。新風を期待したが、残念なことだった。石原慎太郎さん、橋下徹さんも、なにか活劇を演じているようで、橋下さんは〈ふわっとした民意〉に応えたいと言ったそうだが、維新の存在がふわっとしていた。
みんなの渡辺喜美さんが、「党名は『みんなの維新』ではどうか」
と提案する場面があったらしいが、第三極が上手に大きくまとまり、八十歳ではなく、五十代のチャーミングな党首が先頭に立ち、石原さんは大久保彦左衛門よろしく、言葉少なにうしろからにらみを利かす、といった図柄なら、選挙情勢は一変していたかもしれない。なにしろ、民主は猛烈逆風、自民は微風だったのだから。しかし、そうはならなかった。第三極もやはり引き算である。
これから、のことにも少し触れたい。安倍さんは二度目の首相に選ばれるだろう。だが、世間が熱い期待を寄せるという空気は乏しく、〈右傾化〉への危惧のほうが目立つ。私なんかもかつて〈アカ〉と呼ばれたことがあったが、軽々しいレッテリズムに臆することなく、安倍さんには本音で体当たりすることをすすめたい。
「憲法改正によって、〈国防軍〉の創設を」と安倍さんが言ったとたん、右傾化批判が集中した。田中真紀子文部科学相は、
「極めて危険な思想で……」と例によって噛みついた。〈暴走老人〉はヒット作で、当の石原さんに略奪された感じだったが、この批判はマトはずれである。
国防軍は右傾化でも危険でもない。自衛隊は〈隊〉でなく、正しく〈軍〉と言い換えようという当然の話で、それを認めようとしない風潮のほうが危なっかしい。
自分の国を自分で守るとは具体的にどういうことか、安倍さんは国防軍論争を通じ絞り込んでいく好機である。十分に緊急性があると私は思う。メディアはせっかちに世論調査するのでなく、論争の深化を助けるのがいい。サイレント・マジョリティーはそれをじっと見ている。最初の答えは、二〇一三年夏の参院選で出る。
選挙を終えたからといって、自民だ、民主だ、維新だ、公明だ……と縄張りにばかりこだわるのでなく、政党の枠を多少ずらしてでも、大きな課題、つまり憲法、選挙制度、税制・社会保障、景気・雇用、原発・エネルギー、TPP、教育、まだまだあるが、答えを早々に出してほしいと国民は切望している。
しかし、必ず壁にぶつかる。その時こそ、本格的な政界再編のトビラが開かれるのではないか。(サンデー毎日)
杜父魚文庫

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