七月の参院選を前にして各党は、選挙情勢を分析し、勝てる候補の擁立を急いでいる。大きくいって31の「一人区」の勝敗が天王山となる。自民党の石破幹事長は「一人区は全部いただく」と強気の発言をしたが、その前提は衆院選と同じように野党が共食いの乱立をしてくれることであろう。
31の「一人区」は青森選挙区、岩手選挙区、秋田選挙区、山形選挙区、福島選挙区、栃木選挙区、群馬選挙区、富山選挙区、石川選挙区、福井選挙区、山梨選挙区、岐阜選挙区、三重選挙区、滋賀選挙区、奈良選挙区、和歌山選挙区、鳥取選挙区、島根選挙区、岡山選挙区、山口選挙区、徳島選挙区、香川選挙区、愛媛選挙区、高知選挙区、佐賀選挙区、長崎選挙区、熊本選挙区、大分選挙区、宮崎選挙区、鹿児島選挙区、沖縄選挙区。
31選挙区の情勢をみれば、自民党は三分の二の21以上の選挙区で、すでに優位に立っている。残る10選挙区で勝ち残ることが優先課題となる。
一例をあげれば、栃木選挙区は民主党の谷博之氏が改選を迎える。栃木はみんなの党・渡辺代表のお膝元だから支持基盤を背景にして議席の奪取を狙うであろう。日本維新の会は、一人区にすべて候補者を擁立する方針(松井幹事長)だが、みんなの党との選挙協力が成れば、擁立を見送る可能性がある。
さりとて参院選後を考えれば、自民党との提携も視野に入れねばならぬ維新だから、かなり難しい判断を迫られる。候補者擁立を見送るにしても、維新党員には自由投票という選択肢が考えられる。
さきの衆院選の結果を下敷きにすれば、自民・公明が32万票、みんな・維新が31万票。挟撃をうける民主党は16万票で勝ち目が薄い。まさに自民党とみんなの党が激突する選挙区になるだけでなく維新票をめぐる奪い合いとなる公算もあり得る。
二人区は北海道,宮城,茨城,新潟,長野,静岡,京都,兵庫,広島,福岡の10選挙区。三人区は埼玉,千葉,愛知の3選挙区、四人区は神奈川,大阪の2選挙区。五人区は東京選挙区。ここで自民党は20人以上の当選者を見込んでいる。
菅政権下の2010年参院選で自民党は51議席を獲得、改選第一党となった。衆院選の勢いを持続すれば、ふたたび改選第一党となり、100議席超の参院第一党となる公算が高い。それだけではない。ここはむしろ「自公で64議席」を獲得して、参院過半数の122議席の獲得を一気に目指しているのではないか。
参院選のキイワードは「一人区の獲得競争」と、選挙後を見据えた「維新との提携」だといえる。
安倍首相が維新の橋下副代表、松井幹事長と会談した意味は、かなり奥深いものがある。単純な野党分断の工作とみるのは、誤っている。自公で参院過半数に足りない場合には、維新を含めての過半数も視野に入れているのではないか。それは自公政権が「自公+維新」政権に変質することを意味している。
野党は最初から、「維新+みん党」の構造改革グループと、「民主+生活+社民」の護憲・左派連合に分かれている。この二つの勢力が交わることはないから、分断工作の必要は薄い。
しかし、維新とみんなの党の自民党に対する姿勢には明らかに違いがある。みんなの党は、いまの自民党が小泉改革から後退したとの認識が強い。維新はむしろ自民党と提携して憲法改正に突き進む理念が明確である。
維新にとって悩ましいのは、みんなの党の選挙協力と、選挙後を見据えた安倍自民党との提携のバランスであろう。党勢拡大を目標にすれば、みんなの党との選挙協力が焦眉の急となる。協力が成れば両党で30議席以上の当選者を出すであろう。場合によっては民主党を押さえて、改選第二党になることも夢ではなくなった。
しかし、みんなの党が頑なに自民党との提携に反対すれば、維新も野党のスタンスをとらざるを得ない。憲法改正の論議はしばらくはタナ上げせざるを得なくなる。これは公明党にとっては好都合だが、参院で圧倒的な過半数を制するつもりの安倍自民党にとっては迂遠な道となる。
民主党や生活の党のことは言わぬが花。強いていうなら民主党は非改選42議席があるから、参院選後は「民主+生活+社民」の左派連合を形成し、護憲勢力として存在感を保つことになると思う。
杜父魚文庫
11450 「一人区は全部いただく」と強気だが・・ 古澤襄

コメント