米中関係とアメリカの対中政策についての分析の報告です。日本ビジネスプレス「国際激流と日本」からです。この報告はこのエントリーで完結です。
<米中が余儀なくされる「ぎこちない抱擁」>
(3)非常に悲観的なシナリオ
中国の改革の失敗が経済危機を招く。経済成長率が落ちて、共産党支配への政治的な挑戦を生む。指導部はその対策として国内では弾圧を強化し、対外的にも攻撃的な姿勢を激しくする。
中国の国内の失敗を補うためのこの対外的な冒険主義は米国に対し単なる地域的だけでなく、グローバルなチャレンジを突きつける。その結果、中国は多数の諸国から不信を招き、国際経済システムからも排除され、国内経済をさらに停滞させる。
以上の3つのシナリオのうち、米中関係にとって最も好ましいのが第1の展望であることは当然である。だが同書は現状のままだと、第2あるいは第3のシナリオが現実になる見通しが強いと予測する。その理由としては中国自身の現在の言動が挙げられる。
「軍事力近代化という名の下での大軍拡、自国国民の政治の自由を奪う処遇、台湾への威嚇的な意図の表明、米国の有力同盟国の日本に対する欠陥のある対処、国際秩序を崩すイランや北朝鮮への支援、自由な国際秩序への造反」などがその実例であり、これらの特徴は米国の利益に反するだけでなく、「中国の無責任」だと断じる。
■オバマ政権には中国への「ヘッジ」姿勢が足りない
では米国はどうすればよいのか。「ぎこちない抱擁」という書は以下の骨子をオバマ政権への政策提言として明記する。
・中国との経済関係の保持は重要だが、中国側の知的所有権の侵害や貿易国際規則の違反には手厳しく対応する。経済関係の改善が自動的に中国との対外的な冒険主義を和らげるという幻想も抱かない。
・米国政府は中国のイランへのエネルギー分野での経済投資のような安全保障がらみの活動に対して、十分な制裁や報復の措置を取ることを恐れるべきではない。その結果、米国自身に経済損失が予測されても、ためらってはならない。
・イランや北朝鮮の核兵器開発のような問題で、中国が建設的な役割を果たすことは期待できない。そのため米国は、中国の冒険主義的な行動を抑止するため、米軍の適切な配備や日本、オーストラリア、インド、韓国、シンガポール、フィリピン、ベトナム、台湾などの同盟国、友好国との有志連合の結成を進める。
・米国にとっては、中国に対し「関与」とともに「ヘッジ(万が一の事態に備えての防御)」の態勢維持が不可欠となる。そのための軍事力保持が重要となる。そのヘッジにより、中国の軍拡への抑止と均衡を保ち、中国の軍事がらみの国際的な秩序や安定を乱す動きは断固、抑える。
以上のような安保面でのヘッジ策を保ちながら、なお経済面での関与を続けていくことが米国にとっての中国との「ぎこちない抱擁」だというのである。そして同書の共著者のブルーメンソール、スワゲル両氏はオバマ政権がこの硬軟両面での対中政策を十分に取ってはおらず、特にヘッジ策への措置がまだ足りないという趣旨の警告を発するのだった。
中国の威嚇的な行動に悩まされる日本にとっても参考になる、21世紀の対中政策の勧めだと言えよう。
杜父魚文庫
11517 オバマ政権の対中政策はなにが欠陥か 古森義久

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