<■【書評】『憲法が日本を亡ぼす』古森義久著>
■色褪せていく反対論を証明
一昨年夏にワシントンで開かれた日本国憲法に関する討論会の場で日本外交の一研究者から「日本は国際社会のモンスターだというわけですか。危険なイヌは いつでも鎖につないでおけ、というのに等しいですね」との質問が出たことを著者は冒頭に紹介している。
壇上のパネリストの中で日本に関する無知、あるいは ためにする悪意から、改憲論イコール軍国主義志向だなどと口走る人物が米国にいまだに存在することへの苛立(いらだ)ちであろう。
勝者は敗者に対して国体の変更を要求する。強制ではないかのような巧妙な仕掛けをしてみても、歴史は「押し付け憲法」であることを明白に証明してしまっ た。
にもかかわらず、この憲法を少しでも正そうとする向きに、「右傾」とか「修正主義」といった罵声が浴びせられる。
安倍晋三首相の頭に「右翼の」 (right-wing)との形容詞をつける論評はいまでも米紙誌に登場するではないか。米占領軍が敗者の日本に与えた日本国憲法という鋳型をいまだに信奉する日米両国のリベラル派がいる。
米国に存在する憲法改正の賛否両論のうち、反対論が次第に色褪(いろあ)せていく様子を著者は新聞記者の目で丁寧に証明してみせてくれる。
背景には国際 政治における力の関係の変化がある。
「平和的台頭」を自称した中国は「危険な台頭」で国際社会の嫌われ者になりつつあり、米国は財政難のしわ寄せがもろに軍事費にまで押し寄せている。頼りとする日本は民主党政権下で歩調がすっかり狂ってしまった。
米国の一部には首相の靖国神社参拝奨励の声も上がり、核武装すら認めようというのに…。日本よ、しっかりせよとの著者の気持ちが伝わってくる。
巻末に70ページにわたり、GHQ(連合国軍総司令部)次長だったチャールズ・L・ケーディス大佐との81年におけるインタビューが一つの章として加えられている。
草案執筆にあたった人々の発言、報道や解説にあたる者の誤解とケーディス発言との食い違いを点検するうえで、資料としての貴重性は失われていない。(海竜社・1680円)
評・田久保忠衛(杏林大学名誉教授)
杜父魚文庫
11527 書評「憲法が日本を亡ぼす」 田久保忠衛
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