11575 書評「毛沢東が神棚から下りる日 中国民主化のゆくえ」    樋泉克夫

<『毛沢東が神棚から下りる日 中国民主化のゆくえ』(堀江義人、平凡社。2013年)>
1944年に台北で生まれた著者は、朝日新聞の北京・ウランバートル支局長、上海市局長を務めている。同紙中国報道を最前線で支えてきたわけだ。
著者は「現代中国の原点は毛沢東時代にある――本書はこの視点から毛沢東と鄧小平の時代を検証し、民主化のゆくえを展望したものだ。
江沢民、胡錦濤の時代も鄧小平路線の延長にあった」と自らの視点を明らかにし、金権腐敗独裁一途の共産党による有形無形の嫌がらせや弾圧に抗す一方で、「人権も尊厳もなく、ただ虫けらのように生きてき」たゆえに「統治されることに慣れきっている」中国人の無関心と非協力といった劣悪な環境にもめげず、共産党に敢然と異議を唱え社会変革を訴え続ける有名無名の老若男女に取材し、その言動を追い、彼らの著作などを引用し、「中国民主化のゆくえ」を探っている。
著者は数多くの“民主派闘士”に接触し、現在の中国、共産党、中国人に対する彼らの考えを引き出している。そのうちの一部を引いてみると、
■「中国は世界で最も拝金主義にまみれた国」
■「人を資産階級と無産階級に分けたマルクス・レーニン主義は間違いだ」
■「一九三九年以降、共産党は日本軍との大きな戦闘に加わらず、解放区と武力の拡大のみに力を入れた。民族存亡の危機に日本人を打たず、そろばんを弾いて勝利の果実を摘み取ったのだ」
■「毛沢東、劉少奇、周恩来、朱徳は、政治面での反封建は徹底していたが、思想面では孔孟思想の影響が残っていた。彼らには封建思想の残余を一掃できなかった」
■「(天安門事件の活動家で)海外に出た連中は口論ばかりで収拾がつかない。彼らは実権を奪ったとしても、共産党より民主的な政権には到底なりえなかった」
■「(最近の)青年の民族主義情緒が気がかりだ。批判されたら敵という心理なら、世界は敵だらけになる。心理的に緊張していすぎる。アヘン戦争以後の後遺症であり、『敵が反対するなら賛成』という毛沢東の影響でもある。一方で少し豊かになると、金持ち心理が芽生え威張り散らす。発展途上国にとって民族主義はマイナスになる」
■「中国、とくに都市では、路上で人が急病で倒れ、車がひっくり返ってけがをしても、通行人は取り囲んで眺めるか、時には楽しむものはいても、手を差し伸べて、助けようとする人は極めて少ない」
 
どれもこもれも“正論”だろう。だが空恐ろしいのは最後の一文だ。

じつは「八十年前の魯迅の雑文『経験』」の一節なのだ。ならば中国は80年前に戻ってしまった。あるいは中国人の意識構造は根底で進歩も変化もなかった。いや、悪癖が復活したとでもいうのか。
 
そろばん勘定で「摘み取った」「勝利の果実」を手放すことなく、ついには中国を「世界で最も拝金主義にまみれた国」にした共産党に対する著者の批判は、極めて“アサヒらしからず”と評価したいが、「少し豊かになると、金持ち心理が芽生え威張り散らす」中国人を民主で救えるとする思い込みの強さは、やはり“アサヒそのもの”といっておこう。
 
ところで毛沢東、劉少奇、周恩来、朱徳、鄧小平らがにこやかに握手を交わす写真を挙げ、著者は62年当時の共産党首脳の関係を語ろうとするが、写真解読の専門家の一部には団結を装うために後日に作り上げられた偽造写真との見方が強い。自らの主張の論拠に疑惑のある写真を説明もなく使うとは・・・流石に「珊瑚事件」のアサヒだ・・・感服。
(読者の声)アルジェリアで起きたイスラム武装勢力による人質事件はアルジェリア軍の強行突破により終息したが犠牲者は日本人10名、フィリピン人8名、英国人3名、米国人3名と報道(15日現在)と報道されているが、なぜか武装勢力側の犠牲者数は公表されていない。
今回の事件で日本人犠牲者数が最多だった理由は何か。
人質を取った武装勢力側に立って考えてみれば明瞭である。何しろ日本という国は「人命は地球より重い」と言っているではないか。であれば身代金を最大化できる人質は日本人以外にあり得ないではないか。今回の武装勢力側の誤算は人質解放交渉に移る前にアルジェリア軍に攻撃され自滅してしまったことだろう。
さて、そもそもアラブの春と持て囃し、独裁国家が民主国家へ変身したかの如きマスコミの錯覚が間違いだろう。アラブの春のドミノはチュニジア、エジプト、リビアと伝播したが今やシリアで頓挫しているだけでなく、ドミノが通過した3国は相変わらず混乱が収まらずイスラム武装勢力の温床と化しているのではないか。
とくにリビアのカダフィ大佐を殺害しリビアを解放したという主張は間違いである。
偉大な指導者カダフィ大佐は「緑の書」で自身の国家観を明確化し、多数の部族からなる自国の統治原理を欧米型の代表民主主義ではなく、部族原理を基本とした独自の社会民主主義に置いた。豊かな石油収入を活用して、カダフィ大佐は教育に力を注ぎ、自国民の識字率を格段に向上させ、また女性の地位向上にも努力した。かくて国民の支持も高かったカダフィ大佐を欧米の傀儡勢力が倒してしまった結果何が起きたか。
リビア軍の軍人は近隣諸国から集まった傭兵が主体だったが、カダフィ大佐という玉の緒が切られて、傭兵たちは玉と散った結果、彼らは与えられていた豊富な武器と共にアルジェリアをはじめ近隣諸国へと潜入しイスラム武装勢力と化したのである。今回の人質事件も本を正せばカダフィ大佐の殺害に端を発していると言えるのではないか。
「アラブの春」は今や「アラブの砂嵐」と化し、北アフリカ諸国から中東諸国にかけて、猛威を振るうことになるだろう。(ちゅん)
(宮崎正弘のコメント)カダフィの亡霊が砂漠を席巻している構図ですか。カダフィの近代化はイランのパーレビ、イラクのサダムフセインに似ています。エジプトはムバラク以後、ひどくなりました。チュニジアもシリアも無政府状態。アラブの春の結果です。
杜父魚文庫

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