日本の商社からなる日本貿易会の「2013年1月号月報」に朝田照男・日本貿易会 副会長/丸紅社長が「注目される2つのフロンティア」という以下の記事を書いている。
<2013年は、残されたフロンティアともいうべき「アフリカ」と「メコン」の2つの地域に注目したいと思います。
アフリカは高い潜在力が見込まれる「希望の大陸」です。成長率上位20ヵ国を調べてみると、小国を除けばその半分は同地域の国々が占めます。生産年齢人口(15-64歳)の比率が高まる人口ボーナスを2050年にかけて享受できる見込みであり、成長の天井に達するまでには時間的余裕がありそうです。
資源の観点からも、石油・天然ガスの他、マンガン、クロム、コバルト、白金族などの存在は魅力的です。
また、2013年6月に、わが国主導の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が横浜で開催されることは大変意義深いことです。ここでは民間投資の拡大が重要テーマとして議論される予定であり、アフリカへの進出が加速する足掛かりとなるでしょう。
一方、メコン川流域地域は、まさにテイクオフしようとする「アジアの翼」です。(中略)
これら2つの地域が持続的な成長のステージを着実に歩むためには、多くの課題を解決しなくてはなりません。資金面ではわが国政府の支援が必要となることはいうまでもありません。
また、市場経済システムの導入や投資環境の改善に向けた法整備など相手国の自助努力も求められます。市場獲得をめぐって他国との競争が激しくなる中、われわれ商社としては積極果敢に橋頭堡ほを築き、伸びゆくフロンティアの果実を最大限獲得できるよう取り組んでいきたいと考えます>
これを読んで、深田祐介の「日本商人事情」(昭和53年、週刊ポスト連載)を思い出した。深田はこう書く。
<戦後の貿易戦争においても「学徒動員」が行われたのではないか、私はそう思っている。昭和23年の学制改革以来、大学卒業生の数は戦前とは比較にならぬ圧倒的な勢いで増えていった。
ときあたかも高度成長期を迎え、これらの新卒業生は膨張する一方の企業に大挙して流れ込んだ。企業の方はといえば、技術革新と設備投資の集中したおかげで組織はふくれあがり、新設したポジションの権限は若手にまかさぜるを得ない状態にあった。
動員された人たちの多くが入社後、年を経ずして大きな権限を与えられ、第一線に立ち、大量に海外へ送り出される、そういうことになった>
29歳の若さで単身、アフリカのザイールの駐在員になって、悪戦苦闘した者もいるが、泥にまみれて這いずり回った苦労を笑い飛ばしていることがイケイケドンドンの高度成長時代を感じさせる。当時からアフリカはフロンティアであった。
日本貿易振興機構(ジェトロ)がアフリカに進出している日系企業に対し「アフリカへの進出動機」(2012年度)を聞いている。それによると「市場の将来性」が68.2%で最も多く、続いて「市場規模」(42.7%)、「天然資源」(22.3%)であった。
前回調査(2007年度)と比較すると、上位3項目に変化はないが、「日本のODA」が前回より低下し、一方で「収益性」が前回より増加した。
地域別にみると、いずれの地域でも「市場の将来性」が最も多かった。それに続く動機は、北・西・南部アフリカでは「市場規模」だったのに対し、東アフリカでは「日本のODA」が2番目に多かった。ケニアでは円借款で発電事業、港湾整備などを受注した例がみられる。
「市場規模」では、人口1億6000万人を超える「ナイジェリア」で半数以上の企業が進出動機として挙げた。また、アルジェリア、リビア、ニジェール、ザンビア、モザンビークに進出する企業の半数以上が「天然資源」に期待している(注)。
この「日本商人事情」の単行本は昭和54年に発行されたが、上前淳一郎の解説も読ませる。
<深田さんは「われわれも15年戦争を戦ったのだ」という表現を好んでする。15年戦争とは氏や私などの父親の世代が経験した戦争のことだ。それに敗れたあと、こんどは息子の世代が、貿易戦争という新しい15年戦争をやった。
この15年とは、高度成長が始まった昭和35年から昭和50年ころまでと思っていい。苦闘のすえ、日本が2度目の15年戦争に勝ったことは、あらためていうまでもない>
今、日本は“失われた”と言われる「15年戦争」で悪戦苦闘している。かつては「追いつけ、追い越せ」だったのが、今は新興国から追い上げられており、「2度目の15年戦争」のような明るさ、陽気さは影をひそめているようだ。アフリカの政情不安やテロも心配の種だ。
アフリカの発展を願うが、果実を享受するまでにはまだまだ長い道のりがあるだろう。「希望の大陸」への道は遥かなりと言わざるを得ない・・・。
注)ジェトロの「在アフリカ進出日系企業実態調査」(2013年1月23日発表)は在アフリカ進出日系企業333社(回答企業数168社、有効回答率50.5%)にアンケートしたものだが、アフリカ・ビジネスにおける過去5年間の業績では、51.6%の企業が「改善した」と回答。今後の対アフリカ・ビジネスの重要度についても、67.3%の企業が「増す」と回答している。
事業展開の方向性では、58.7%の企業が「進出国内でのビジネス拡大、新規投資を予定・検討中」。また、約3割の企業は「アフリカ内の他国への進出を予定・検討中」と回答。今後、事業拡大を検討している有望分野として、「消費市場」「農業開発」「通信」「医療」「環境技術」などが挙げられた。
「政治的・社会的安定性」「規制・法令の整備、運用」や「雇用・労働の問題」などは引き続き経営上の課題であり、厳しいビジネス環境に置かれている状況は不変である。(頂門の一針)>
杜父魚文庫
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