外交無策の民主党政権が壊滅して、安倍政権は新時代の日本外交を構築しようとしている。日本外交の基軸が日米同盟の強固な維持・発展にあるのは言うまでもない。しかしロシア・カードも有効に使う必要がある。
そのアメリカは膨大な軍事予算の削減を迫られている。超大国の軍事力に依存するだけの日本外交では、アジアでの発言力を徐々に失うであろう。軍事力とくに海軍力の強化が著しい中国は、日本の足下をみて尖閣諸島周辺で威嚇的な示威行動に余念がない。
この時期に安倍首相は訪米して、オバマ大統領と首脳会談を行った。三年三ヶ月にわたった民主党政権下で毀損された日米の信頼関係は修復されたとみていい。しかし、それだけでアジアでの覇権行動に出ている中国に自制をうながすことは出来ない。
同じ時期に森元首相が訪ロして、プーチン大統領と一時間十五分にわたって会談した。このふたつの動きは”表裏一体”とみるのが正しい。
首脳会談を終えた安倍首相はワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)で「Japan is Back(日本が戻ってきた)」という演題で英語講演をしている。
オバマ大統領に対し、東アジア情勢の緊迫化を受けて、日本の防衛力を強化するとの方針をオバマ大統領に伝えた安倍首相は、「日本は常に冷静に対処していく考えである」と軍事力の強化が、日中の局地的な戦争に備えるものではないと英語講演で強く訴えた。
これに対する米メデイアの反応は、おおむね好意的である。米ウォール・ストリート・ジャーナルは「米国で防衛関連予算が縮小するなか、日本の防衛力が強化されれば、米国の負担軽減につながる可能性がある」と論評した。
これを”表の外交”とみるなら、プーチン大統領と会談した森・プーチン会談は”裏の外交”といっていい。
森元首相は会談後にモスクワの大学で、日露関係について講演を行った。その中で北方領土問題でプーチン大統領が日本語の「引き分け」という表現を使ったことについて「勝ち負けのない解決ということだ」と語った。
このことを森氏は「もし『四島一括返還』が文字どおり実現したら、日本の勝ち、ロシアの負け。逆に、現状維持が決定したら、ロシアの勝ち、日本の負けになる。どちらも恨みが残り、平和的な解決にならない」と指摘している。
日本外交が米ロ同時進行しているのは、中国の動きを牽制したものとみていい。利にさとい中国は敏感に感じとっているだろう。まさに「敵は本能寺にあり」である。
杜父魚文庫
11830 米露同時進行の安倍外交戦略 古澤襄

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