尖閣諸島の海と空が尋常ならざる緊迫の中にある。
中国は昨年9月以来、尖閣諸島の真北80海里(約150キロメートル)の海にフリゲート艦2隻を常駐させてきた。この2隻の軍艦と、度々尖閣諸島周辺の領海を侵犯する国家海洋局所属の海洋監視船「海監」などは、これまでバラバラに動いていた。
それが1月中旬以降、両者が連携し始めた。尖閣諸島周辺海域に常時中国艦船がプレゼンスを誇示出来るように、海監が中国側に引き揚げるときはフリゲート艦が日本の海に前進するという形で双方が協力し始めた。対日作戦の前面に軍が明確な形で立ち始めたのだ。
ほぼ同時期、空でも中国軍の動きが活発化した。戦闘機が日本の防空識別圏へ飛来し、挑発するように日本の領空スレスレの侵入を繰り返す事例が頻発してきた。
中国による挑発は激化する一方である。小野寺五典防衛相が2月5日夜、緊急記者会見で発表した中国軍による自衛隊機および護衛艦に対する射撃管制用のレーダー照射は、中国人民解放軍が習近平体制の路線を意識した対日強硬路線の一端だと考えるべきだ。
中国外務省は軍によるレーダー照射を新聞報道で初めて知ったと言い張る。しかしレーダー照射は分単位で行われていた。確実にターゲットをレーダーで捉え、ロックオンした状態が分単位の長さで続いたことは、攻撃の意図をもってなされた敵対行為だとみられても仕方がない。
そこには軍としての明確な攻撃的意図が読み取れるのであり、中国外務省の、寝耳に水だったとの弁明を額面通りに受け止めるわけにはいかない。
習総書記は昨年11月に中国共産党の最高指導者に選ばれて以来、「平時における軍事力の活用」と「軍事闘争への準備を最優先せよ」と繰り返し指示してきた。「平時における軍事力の活用」とは尋常ならざる強硬路線だ。緊急時でも有事でもない通常の平和な状況下で軍事力を活用せよとは、軍国主義であり侵略思考そのものだ。
事実、習総書記は2月2日と4日、それぞれ中国人民解放軍の空軍基地、酒泉衛星発射センター、蘭州軍区を視察し、「軍事闘争への準備を深化させよ」と指示したと、国営新華社通信が2月6日の配信で伝えている。
問題は、習近平体制下の対日強硬路線の目的が、国外に敵をつくり、共産党への批判を回避することで、共産党一党体制を守ることだと思われることだ。つまり、中国側がこれでおとなしくなることはないということであろう。では日本は何をなすべきか。
安倍晋三首相は「中国の挑発に乗ってはならない」と指示し、次に情報開示に踏み切った。情報開示に先立って米国にも事情を説明した。正しい手順である。しかし、素早く次の手を打たなければならない。海上保安庁と自衛隊の予算をさらに増やすことだ。
安倍政権はすでに海保の予算を前年度比37・6%増額し、尖閣専従として巡視船12隻、約600人体制のチームを発足させることを決めている。正しい決定だが、なんと専従チームが出来上がるのが2015年度、あと2~3年先なのである。これでは遅過ぎる。自衛隊に関しても予算増額が決まっているが、より大きな規模での予算増額が必要である。加えて一連の工程を早めることが欠かせない。
その一方、足元の摩擦を出来るだけ少なくすることが急がれる。具体的には尖閣問題に関して台湾との協調関係を早く構築することだ。台湾の野党、民主進歩党主席の蘇貞昌(ソ・テイショウ)氏を2月6日取材した。氏は明確に台湾の尖閣諸島に対する領有権を主張した上で、東シナ海の平和と安定はより重要な問題であるとの見解を示した。そのために日台両国は早期の漁業協定を締結すべきだという主張だ。台湾の声を大事にするべきときだ。(週刊ダイヤモンド)
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