日本の女子柔道選手たちがワシントンにきて、アメリカ側と交流し、大人気でした。男子も同様でしたが、日本の女子柔道界はいまなお暴力問題で揺れ動いています。真相がわからないまま、責任逃れのような措置がさみだれ的にとられ、状況をますます悪化させています。
日本女子柔道の国際的な価値がわかればわかるほど、いまの不透明、不明朗の状態の継続が惜しまれます。
■女子柔道「霧」晴らす存在感
私の通う「ジョージタウン大学・ワシントン柔道クラブ」は、ここ数日、かつてない多数の女性の練習姿でにぎわった。日本の大学柔道の女子選手たちが来訪したからである。
「日本の女子柔道の技術がこんなにすごいとは知りませんでした」
この大学の2年生の女子学生ケイティさんが練習の合間に息をはずませて、感想を述べる。
国立衛生研究所(NIH)の医療技師ジェニファーさんも「日本の女子選手はみな礼儀正しく、優しく、投げられてもさわやかな気分です」と語る。
日本の女子選手たちは東京学生柔道連盟海外研修団(団長・白瀬英春東海大教授)の一行だった。首都圏の合計10大学から選ばれた男子15人、女子5人の 選手から成る研修団は2月28日にワシントン入りした。以来、日米柔道交流を主目的に3月4日夜まで3回にわたって「ジョージタウン大学・ワシントン柔道 クラブ」で合同の練習や講習にのぞんだ。
「日本選手団きたる」の報にかなりの遠方からも多数のアメリカ人柔道家たちが集まってきた。100人をゆうに超える人数となった。とくに女性がこれまでみたこともないほど多数、参加してきたことに驚かされたのだった。
日本の女子柔道といえば、いま選手たちへの暴力的な体罰が表面に出て、まさに揺れ動く最中である。女子柔道界全体がすっかり評判を落とした感じさえある。だがその一方、米国ではまだまだこれほど歓迎され、高い評価を受ける存在なのだ。
研修団はワシントンでは柔道だけにとどまらず、日本大使館を見学し、佐々江賢一郎大使の講話に耳を傾けた。ジョージタウン大学ではケビン・ドーク教授の「新渡戸稲造と武士道」についての講義を受けた。
だが主体はもちろん柔道で、男子選手は研修団主将の東海大学の大沼光篤選手や日本大学の渡辺将之選手らが米側との練習や友好試合で圧倒的な強さをみせた。多層多様な日米間のきずな全般でも、柔道は数少ない日本先導の交流分野として確立されたことを印象づける光景だった。
それでもなお練習でも試合でも女性たちの交流にとくに活気が感じられた。つい最近まで全日本級の女子選手として活躍した日大出身の上原円コーチまでが米側の選手に請われて乱取り稽古に加わり、日本女子柔道の技のさえをみせた。
創価大の滝沢苑果、東海大の元吉友美、国士舘大の向井理子選手らが小柄な体で一回りも二回りも大きい米側選手たちをきれいに投げていた。今回の日本女子が人気を集めたのは、みな軽量に近い小さな体格が多く、その分、技の切れのよい選手ばかりだったからかもしれない。
しかしとくにユニークだったのは、米側の全盲の選手アンジーさんに日大の野田優海選手や東海大の綾部友美選手がつききりで稽古をつけたことだった。数年の柔道歴を持つアンジーさんは20代後半の女性で当クラブの練習には欠かさず出て、パラリンピックを目指すと宣言している。その彼女が日本の女子選手たちに次々に稽古を求めたのだった。技の説明には上原コーチまでが加わり、ときおり楽しそうな笑いを交えながらの日米交流となった。
日本の対外発信としてはこれほどの効用を発揮する女子柔道、国内での暴力問題での黒い霧を晴らして一日も早く明るい花道を前進してほしいと痛感させられるのだった。(ワシントン駐在編集特別委員)
杜父魚文庫
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