アメリカが中国の海軍力増強を懸念しはじめたのは2006年。それまではアメリカも日本も中国海軍を”沿岸警備海軍”、いうなら海上保安庁の巡視船程度の扱いしかしていない。大陸国家・陸軍国は海軍力が弱いという伝統的な国家観もあった。
2006年10月、米第七艦隊の空母キティ・ホークの目の前に中国の潜水艦が急浮上する事件があった。キティ・ホークは、浮上前に中国潜水艦を探知しておらず、魚雷攻撃が可能な距離まで接近されていた。
世界的に権威がある「ジェーン海軍年鑑」(発行元は英国のジェーン・インフォメーション・グループ)は、中国は1956年に旧ソ連からウィスキー型潜水艦を供与され、これをもとにして江南の造船所で、03型潜水艦と名付けた21隻を建造したとしている。
さらにウィスキー級の改良型であるロメオ型潜水艦およびその国産版の033型潜水艦が導入され、1985年には90隻が在籍していた。しかし沿岸警備用の中距離攻撃潜水艦として設計されていたため、航続距離や兵装搭載量の点で不足が指摘されていた。90隻のほとんどが、すでに退役している。
キティ・ホーク事件は、中国海軍が静謐性(せいひつせい)に優れた遠洋潜水艦を保有するに至ったものとして注目を集めた。もっとも1970年代に就役した035型潜水艦(明級)20隻が、いまもって中国海軍の主力で、旧式潜水艦群であることは変わりない。日本海で035型潜水艦が海上自衛隊によって目撃されている。
量から質への転換を図る中国海軍は、2020年までに新型潜水艦を30隻建造する計画だという。これに警戒心を強めている日本や韓国は、2021年までに対潜哨戒機100機とヘリコプター100機が投入して中国潜水艦に対する監視活動を強める方針でいる。
潜水艦や航空母艦、さらにはイーズス艦などの建造技術は国家機密である。初期の中国潜水艦はソ連から旧式のウィスキー型潜水艦と5隻分の部品が供給され、これをモデルにして国産潜水艦の建造に入った。海中には潜るが、海の底をチンドン屋がねり歩く様な音を立てる・・・というのが実状だった。
しかしソ連は、それ以上の高度な潜水艦の建造技術を中国に与えない。中国の091型原子力潜水艦(漢級)は四隻就航しているが、騒音が激しいことで有名な旧式艦。一隻は搭載ミサイルの試験中に沈没したといわれる。2002年から改修されて、騒音レベルも大幅に低下した説があるが、実態は分からない。
このように潜水艦の生命は、潜航中に騒音を立てないことにある。原子力潜水艦といっても騒音が激しい旧式艦では、ソナーで探知され爆雷攻撃を受けて沈没してしまう。日本の海上自衛隊の潜水艦群は、いずれも高性能・静謐性を備えているから、中国潜水艦群より優位に立っているが、10年後には優位性を失っているかもしれない。。
杜父魚文庫
11977 中国海軍の認識変えたキティ・ホーク事件 古澤襄

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