米国は44基の迎撃ミサイルを米本土に配備し、北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃する態勢をとった。ひるがえって北朝鮮のノドン・ミサイルの脅威に曝されいる日本のミサイル防衛はどうなのであろうか。
平成10年(1998)小泉内閣が北朝鮮の弾道ミサイル開発を日本の安全保障の脅威とみなして、『日本版弾道ミサイル防衛(BMD)』のシステム導入を決定した。翌年の平成11年度から毎年1000億円から2000億円の予算を計上し続けて、ミサイル防衛体制の構築と研究開発を続けている段階である。
弾道ミサイル迎撃の方法としては①発射直後のブースト段階で破壊するもの②発射後大気圏外で慣性飛行している段階で破壊するもの③着弾前の再突入段階で破壊するものの3つに分けられるが、コストもかかり信頼性も落ちる。100%迎撃成功というのはあり得ない。
一時話題となったイスラエルのアイアンドーム・システムは、ハマスのロケット弾を90%の確率で迎撃破壊して、韓国でもアイアンドームの導入が検討されたが、ハマスのロケット弾は安物、低性能で誘導システムのようなものは一切装備されていないから、北朝鮮の弾道ミサイルとの比較は無意味ではないか。
弾道ミサイルを発射する側に比して、迎撃側のミサイル防衛システムの方が更に極端な高性能化(相手の速度が極大化する)が要求され、技術的な難易度は高くなる難点がつきまとう。
米国の弾道ミサイル迎撃能力を持つミサイルは開発のほかは、イスラエルのアロー(Arrow)や、ロシアのS-300などが知られている。だが基本的には相手国のミサイル発射基地を攻撃し、破壊するしかないというのが現実であろう。
それでミサイル発射側も攻撃され安い固定基地を避けて、移動式ミサイルの開発に力を入れている。北朝鮮のノドン・ミサイルは移動式型になったといわれている。
弾道ミサイルの発射は早期警戒衛星によって探知される。その情報は、アメリカ本土のMCS (Mission Control Station) または日本やドイツ、韓国の米軍基地に配置されたJTAGS (Joint Tactical Ground Station) で受信される。
米イージスBMD艦は、アメリカ四軍の統合情報配布ネットワークIBSに接続するための端末・JTT (Joint Tactical Terminal)が配備されており、IBSで配布された早期警戒情報を受信する。
ミサイルの最終着弾の段階は、パトリオットPAC-3システムによって迎撃する。しかし終末速度が極めて高速になる大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)では対応できないという指摘がある。そこから相手国でミサイル発射の動きがあれば、先制攻撃をかける論が出てくる。
現在、米軍にはイージスBMD3.6と呼ばれるバージョンが実戦配備されつつあるが、日本の海上自衛隊には、その日本版としてイージスBMD3.6JまたはJB1.0と呼ばれるものが開発されている。オリジナルのイージスBMD3.6との主たる相違点は、IBS/JTTを搭載しないことである。
イージスBMD3.6Jは2010年度までにこんごう型護衛艦4隻に搭載され、こんごう型はミサイル防衛能力を獲得した。これにより、2隻の作戦配備艦で南西諸島を除いた日本全土を防衛できることになった。
しかし相手国からの第一撃を半減できても、200基あるといわれるノドン・ミサイルの波状攻撃を受けたら壊滅的な被害を受けるのは避けられない。平和憲法でみずからの手足を縛った日本だから、ひたすら北朝鮮の良識に期待し、神に祈るということなのだろうか。
杜父魚文庫
12021 穴だらけのミサイル防衛システム 古澤襄

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