参議院の本屋さんで書棚を眺めていると、親父さんが、これ出たよ、と持ってきてくれた分厚い本が、パトリック・ブキャナンの「不必要だった二つの大戦、チャーチルとヒトラー」だった。
著者のブキャナンは、ニクソン、フォードそしてレーガン大統領のアドバイザーを務め、2000年には自らアメリカ大統領選挙に出馬した男だ。
原題は、「Churchill,Hitler,and the unnecessary war」
しかし、このブキャナンの著作と同時期に、第31代大統領であったハーバート・フーバァーの回顧録がスタンフォード大学から出版されて、そこには、第32代のF・ルーズベルト大統領が狂人の如く対日戦争を欲して仕組んだと書かれている。
従って、いやしくも、共和党の三人の大統領のアドバイザーを務めた者ならば、著書の題名を、チャーチルとヒトラーにルーズベルトも加えて「不必要だった二つの大戦、チャーチル、ヒトラー、ルーズベルト」にしろよと思った。
とはいえ、冒頭、「これら二つの大戦争は・・・レーニン主義、スターリン主義、ナチズム、ファシズムという狂信的イデオロギーを生み出した。これらイデオロギーの悪政の統治下で虐殺された犠牲者の数は、十年間の戦場の死者を上まわるものとなった。」という一文が二十世紀の本質を捉えていることに共感して購入した。
未だ読了していないが、初めを読んで感じるのは、彼の視点が、当然ながら、全く馬鹿なほど、いや、アジア人から見れば狂人の如く西洋中心だということだ。
ブキャナンは、「イギリス人がアフリカにやってきたとき、そこはまだ原始、部族社会だった」、しかし、「去ったとき、道路、鉄道、電話と通信システム、農業、工場、漁業、鉱山、訓練された警察、それから公共施設が残されていた」という。
そして、「ソビエト帝国を好感的に記憶するヨーロッパ人はいない。」と同時に続けて「嫌悪の念を抱かずに日本帝国を思い起こすアジア人もあまりない」と書きよる。
その上で、「かつて太陽の沈むことのない帝国に属していたという誇りをもつ人々は、世界中にあまねく存在している」と説いて、「アメリカは、イギリスに特別なもの、法律、言語、文学、そして自らを代表する政府の考えを負っている」と結ぶ。
いやはや、これを最後まで読了するかどうかは分からないが、このブキャナンの本の書き出しを長々紹介した理由は、昭和十三年(1938年)に生まれて戦後のアメリカ政治を内部から体験してきたブキャナンという人物の意識も斯くの如く欧米本位であるということを知りうる文章だったからだ。
これは、ブッシュ大統領(ジュニア)が、イラク戦争に突入するときに、アメリカが日本を民主主義国にしたようにイラクも民主主義国になると語り、ヤルタ密約がバルト三国をスターリンに提供するヨーロッパにとって背信的密約であったことを表明しても、アジア特に日本に対してもその固有の領土を奪いスターリンに提供する背信的密約であったことには全く触れなかったことと相通じている。
つまり、アジアにおいて、アメリカが日本の期待通り動く保障はない、ということをブキャナンの本の書き出しから知っておいてほしい。
即ち、アメリカの歴史観は、支那に近い。日本には敵対的だ。
歴史観において、アメリカは中国共産党の日本非難プロパガンダに深く頷きそれをほとんど信じる。日本の事実に基づく弁明は耳に入らない。
アメリカは、本能的に中国共産党の対日非難に迎合する傾向にある。何故なら、アメリカが、日本の無抵抗の婦女子を絨毯爆撃で数十万人焼き殺し原子爆弾を投下してさらに数十万虐殺したことを正当化するには、「嫌悪の念を抱かずに日本帝国を思い起こすアジア人もあまりいない」状態にしておきたいからだ。
以上のことを念頭に置いて、いよいよ中国の軍事攻勢に対して腹を固めなければならなくなったと感じている。
外国の不当な行為に対して、賢明な指導者は、できるだけ平和を長く維持しようと対話に努力して戦機を失うが、勇気ある指導者は、素早く戦争を決断して勝利し、新しい平和をつくる(以上、紀元前431年のコリント人の演説)。
即ち、我が国の総理大臣は、「勇気ある指導者」でなければならないときが迫っているということだ。
新指導者習近平は、対外的に軍を動かして権力基盤を固めたいという強い衝動に駆られている。それほど中共の内実は矛盾に満ちて不安定である。
この状況のなかで、尖閣の事態つまり中共軍の尖閣侵攻への引き金は、二つある。一つは、北朝鮮の軍事動向と朝鮮半島情勢、他の一つは、中東即ちイスラエルのイラン攻撃。
朝鮮半島と中東ともいよいよ軍事的暴発は現実味を帯びてきた。
特に、中東が火を噴くのは、カウントダウンの状態になっている。昨年の十一月、ガザ地区の過激派ハマスからイスラエルに百発以上打ち込まれたミサイルは、イランがハマスに提供した千発のミサイルの一部だ。そのイランのミサイルは北朝鮮から来ている。
イスラエルのネタニエフ首相はイスラエルを敵視して核爆弾を開発しているイランを今やらねば戦機を逸すると判断している。つまり、彼は、「新しい平和」をつくろうとしている。今戦機を逸すれば、将来イスラエルにイランの原爆が打ち込まれるからだ。
アメリカの関心もヨーロッパ・中東にあり、大統領は中東に出発した。また軍事的にも経済的にも、イスラエルとイランの動向次第によって、アメリカはアジアで動けなくなる。
極東においいて、アメリカが動けなくなった時に、極東で軍事的に動くのが中共である。
その時我が国は、軍事的に動き始める中共の一瞬速く機先を制してその出鼻を一挙に挫いて独自に「新しい我が国の平和」をつくらねばならない。
そして、この時に我が国に必要なのは、話し合いに長けたソフトな「賢明な指導者」ではなく「勇気ある指導者」なのだ。戦後政治からの脱却とは、まさにこのことなのだ。
では、戦後政治からの脱却と自分で言っている安倍総理自身は、実はどちらの指導者なのか・・・。
本日は、ここに踏み込まないが、TPP交渉参加議論が上手く乗り切れれば点数が上がるということと全く次元が異なる戦後の最難関が目と鼻の先に迫っていることを強く警告する。
政府は、南海トラフの巨大地震を警告するのならば、同時にさらに深刻な何が起こるか分からない国際情勢の中の地震にも神経を使わねばならない。
この地震こそ、人為的に何時でも突発的に起こるからだ。つまり、我が国の総理大臣が、今、対中武力衝突を決断しているのか否か、これが我が国の平和をつくれるか否かの分岐点である。
杜父魚文庫
12056 いよいよきな臭くなってきた 西村眞悟

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