■【緯度経度】ワシントン・古森義久 「日本の防衛を負担するな」
「昨夜、下院のある共和党議員との懇談で、米国はもう日本や欧州から米軍を撤退させたほうがよい、と告げられた。米国のこの財政緊縮の時代に他国の防衛を60年以上も引き受けるというのは無理だから、日本は自国の防衛には自国で責任を持つべきだ、というのだ」
ワシントンの大手シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)の日本部長、マイケル・オースリン氏がこう語ったのに驚いた。3月13日、日米同盟についてのAEIと日本国際問題研究所との合同セミナーでの発言だった。
この集いの主眼が日米同盟の強化であり、著名な日本政治学者のオースリン氏自身、日米安全保障関係の強化論者として知られているから、意外だった。だがすぐに日米同盟の解消とか縮小という一部の意見にも対処すべきだという趣旨からの報告だとわかった。
しかしそこで連想させられたのは、ニューヨーク・タイムズの3月5日付に大きく掲載された「カムホーム、アメリカ」という寄稿論文だった。若手の歴史学者としていま知名度を高めているサンディエゴ州立大学のエリザベス・コブス・ホフマン教授の一文だった。
「イラクとアフガニスタンからの米軍撤退というならば、ドイツと日本からの撤退はどうだろうか」
ソ連の脅威に備えて配備されたドイツや日本の米軍の意義はもう時代遅れであり、「日本はもう自分で自国を防衛する能力が完全にある」と述べる。「世界を守るのに軍事力は必要だが、日本などの同盟国はもう米国のその負担を引き継ぐべきだ」とも主張するのだった。
その背景としてホフマン教授も「米国は予算の強制削減で今年だけでも850億ドル(約8兆448億円)を減らし、しかもその半分が国防費の削減となる時代に、外国の防衛に経費は使えない」と説明するのだった。
共和党の下院議員と、ニューヨーク・タイムズの寄稿論文と、大ざっぱにいえば保守とリベラルの両翼から米国による日本防衛の縮小あるいは終結が唱えられたのだ。ごく少数の極端な意見といえるだろうが、共通するのはいまの米国の財政危機を主要な理由とする点と、日本の防衛はもう日本が自国で担えと求める点である。
ふくれあがる財政赤字を抑えるためにオバマ政権が進める政府予算の強制削減の最大の切り込み先が国防費となっている現実をみれば、理屈としてこんな主張が出てくることも不自然ではない。
中国の沖縄県・尖閣諸島への軍事威嚇をともなう攻勢や北朝鮮の核とミサイルの脅威の切迫で日本側でも国防の意識は高まっているようにみえる。しかし主体はあくまで日米同盟、つまり米国の軍事力への依存だろう。それが戦後の日本のあり方そのものなのだ。だが米国のごく一部にせよ、日本の防衛をもう負担するなという声が出てきたことは知っておくべきである。
日本側ではオバマ政権の「アジアへの旋回」策で日米同盟も強化されるという認識がいま主流だろう。だがAEIでのこのセミナーでヘリテージ財団のアジア専門家、ブルース・クリングナー研究員が「このアジア旋回策は言葉だけで、米軍の実際の強化措置はなにも取られていない」と指摘したことも付記しておこう。
杜父魚文庫
12075 イラク、アフガンだけでなくドイツと日本からも米軍撤退 古森義久

コメント