最近、微苦笑した新聞ゴシップ記事の一つは、景気ランキングの話題だった。
民間調査会社の帝国データバンクは、毎月、企業の景気動向指数(DI)の都道府県別ランキングを公表している。DIは業況が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた指数。このところ、山梨県の最下位が続いていた。
そこで、横内正明山梨県知事が、「県内企業が『山梨は景気が悪いんだ』と思うことはプラスにならない」
と公表を控えるよう申し入れたという。帝国データバンク甲府支店長はこれを受け入れ、四月からランキングの代わりに「低位に推移している」などの表現に変えるという。
「意地悪したわけじゃないので、『そこまでいやなら、やめてあげます』ということです」と支店長が話したそうだ??。
以上は三月十三日付『朝日新聞』に載った。空き店舗が目立つ甲府市中心部と横内知事の写真が添えてある。なぜ微苦笑したかと言えば、知事と支店長のコメントがどちらも締まりがなく、ちょっとポイントがずれていたからだ。まあ、しかし、ランキングなんてその程度のことか、とも思わせている。
斜陽日本が言われるなか、〈ランキング〉という言葉自体、いまの日本社会では好まれていない。なにかとランク落ちの話ばかり聞かされるからだ。
先日、厚生労働省が公表した五年ごとの〈都道府県別生命表〉、つまり平均寿命ランキングもテレビなどで相当騒がれた。平均寿命が男女ともトップの長野県、最下位の青森県のことも取り上げられていたが、話題の中心は沖縄県。一九七五年から連続トップの座を占めてきた沖縄の女性が今回三位(男性は三十位)に転落したのはなぜか、というのである。
しかし、よく数字をみると、沖縄女性は前回より寿命が短くなったのではなく、〇・一四歳延びているのだ。一位・長野、二位・島根の方が伸び率が高かっただけのことで、大した意味はない。だが、それでもランク落ちはなぜか、と気になる。
ランクといえば、ここ数週間は、本誌と『週刊朝日』が大学合格者の高校別ランキングを特集した。毎年の恒例だが、関係者や興味を持つ幅は広く、私なんかも、〈わが母校は……〉と何度となくページをめくることになった。
東大の場合、(1)開成(東京)一七〇人、(2)灘(兵庫)一〇五人、(3)筑波大付属駒場(東京)九八人、(4)麻布(東京)八二人、(5)学芸大付属(東京)六八人と名門が続き、一人合格の高校まで三一〇九人、判明率九七.五%とあるから、ほとんど全合格者の出身校がわかったことになる(本誌)。
◇「七十一歳で優勝」の快挙 励まされるランクもある
いろいろ数字の遊びもできる。たとえば現役合格者の卒業生数のなかで占める比率でみると、ランキングが入れ替わり、(1)筑波大付属駒場三八%、(2)灘三五%、(3)開成三一%、(4)桜蔭(東京)二四%、(5)聖光学院(神奈川)二一%の順だ。
田舎の母校(山口)は全校で一人だけなのに、筑波大付属は一〇人のうち約四人も東大に受かる。この甚だしい落差は一体何だろう。能力差だけとも思われないのだが。
三十年前、私が本誌の編集長をしていたころは高校別だけでなく、合格者の氏名も全部載せていた。合格発表の仕方は大学によってまちまちで、受験番号だけだったり、氏名をカタカナで発表するところもあって、難儀したものだ。大勢の学生アルバイトを雇い、全国の高校と連絡をとりながら、漢字の氏名を詰めていく。なかなかスリリングな作業でもあった。
当時から、大学合格特集号が出るたびに、「ランクをつけるのはやめろ。受験競争をあおるだけじゃないか」とあちこちから批判の声があがった。一見もっともらしい意見のようだが、私はそうは思わなかった。
各高校が合格数で競争意識を持つことはむしろいいことだ。上位だけでなく、中位は中位、下位は下位なりに競争する。それがいい刺激になる。
受験生個人にとっても、人生の大きな難関であることは間違いない。乗り越えるためには、競争に勝つしかないのである。ランキングは競争の集大成であり、両週刊誌の特集号が出なければ、ほかに知るすべはない。
私ごとで言えば、一九五四年、京大法学部に合格した。定員が二百五十人で、いまは知らないが、そのころは学部長が一人ひとりと面接し、何番で合格したかを告げた。私には、
「君は××番だ。おめでとう。しかしね、君はこれから法律を勉強するのだが、(受験八科目のなかで)社会科の点数がいちばん悪い。困るねえ」
とお説教が待っていた。それから四年間、法律学とはほとんど縁のない学生生活を送ることになったが、私の個人ランキングである××番は生涯忘れることがない。
ただ、ランク付けがすべていいわけではない。冒頭の景気ランキングでも、山梨県知事は、
「都道府県によってサンプルの取り方が異なるため、横並びに比較するのは正確ではない」
と異を唱えていたが、それらしいケースはほかにもたくさんあるからだ。国の格付け、ホテル、料理店・レストランの格付けなども、根拠があいまいだったりする。ランキングの真憑性はそれぞれが判断するしかなく、明らかに不当なものは取り消しを求めるべきだ。
最近はこんな話題もある。三月二十五日、埼玉・ボートレース戸田のレースで、七十一歳の現役ボートレーサー、加藤峻二さんが二十代、五十代を抑えて優勝した。過去の高齢優勝記録六十五歳を更新する快挙だった。ボートだけでなく、公営競技史上、最年長の優勝ランキングでも一位だという。加藤さんは、
「えらいことしちゃいました」と喜んだそうだが、ランク付けは高齢社会の励みにもなる。いいじゃないか、ランキング社会。
<今週のひと言> 国会の持病、深刻。自分では治せない。(サンデー毎日)
杜父魚文庫
12203 いいのでは、ランキング社会 岩見隆夫
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