12319 北方領土交渉の流れに変化、12年前のイルクーツク声明  古澤襄

安倍首相は四月末までに訪ロしてプーチン大統領と首脳会談をおこなう方向で調整している。五月になるとメーデーなどロシアの祝賀行事が続くので、その前にモスクワで日ロ首脳会談をするという。
二月に森元首相が訪ロしてプーチンと膝を交えて会談した。この二人は二〇〇一年にシベリアの都市・イルクーツクで会談、日本とロシアが北方領土問題で解決に向かって一番近づいた。両者はイルクーツク声明に署名している。
安倍訪ロは、イルクーツク声明を土台にして日ロ双方が妥協可能な方策を模索するスタートとなろう。来年にもプーチン大統領が来日する道筋がつけば、北方領土問題は解決し、日ロ経済交流が一気に開ける展望が開ける。
とはいえ、この道は平坦ではない。イルクーツク声明を推進した外務省のロシアン・スクールが失われて久しい。東郷欧亜局長(京都産業大学法学部教授)や外務省に影響力を行使した鈴木宗男氏、佐藤優氏が推進した二島先行返還論から再構築するには、かなりの力仕事になる。
むしろ外務省内には、黙っていればロシアの方から四島返還ですり寄ってくるという楽観論が生まれている。背景には日ロが接近することに、米国や中国が警戒している事情がある。何もしない方が得策という外務官僚特有の体質が根強い。
新聞にはあまり出なかったが、四月二日朝、外務省から内閣情報調査室に出向している内閣参事官・加賀美正人氏が都内自宅の浴室で遺体で発見された。状況から練炭自殺をしたのではないかと見られている。
この加賀美氏は鈴木宗男氏と鋭く対立し、鈴木氏から殴打されたと話題になった。納まらない鈴木は平成二十年一月に質問書で、この問題を取り上げている。それを改めて読んでみたい。
いまのところ加賀美氏は「ノイローゼによる自殺」とされているが、日ロ交渉の裏側で何かが動いていると思うのは私だけであろうか。
■平成二十年一月十八日提出 質問第四号「外務省職員の長期欠勤に対する外務省の対応に関する質問主意書」提出者  鈴木宗男
一 「政府答弁書」では、現在外務省国際情報統括官組織国際情報官(第四担当)として配属されている加賀美正人氏の勤務状況について、「職員が長期間にわたって休暇を取得する場合には、一般に、休暇を取得する期間を分散させたり、やむを得ず一定期間まとめて取得する必要があれば当該職員の事務を代行する者をあらかじめ指名する等により、業務に支障が生ずることのないよう対応することとしている。
御指摘の職員の場合にも、同様の対応をとっており、現時点で業務に支障は生じていない。」との答弁がなされているが、加賀美氏が長期にわたり休暇を取得していることは事実であると解して良いか。確認を求める。
二 加賀美氏はいつから休暇を取得しているか。
三 加賀美氏が長期休暇を取得していることで業務に支障が生ずることのない様、現在外務省において具体的にどの様な対応がとられているか明らかにされたい。
四 加賀美氏の事務を代行すべく、現在他の職員が外務省国際情報統括官組織国際情報官(第四担当)のポストに充てられているのか。
五 四で、他の職員が同ポストに充てられているのなら、外務省HPの幹部職員名簿の同ポストの欄に、未だに加賀美氏の氏名が掲載されているのはなぜか。他の職員に代行させているのなら、その者の名前を業務代行者として並記すべきではないのか。
六 四で、他の職員が同ポストに充てられていないのなら、その理由を明らかにされたい。加賀美氏が長期休暇を取得し、外務省国際情報統括官組織国際情報官(第四担当)としての職務を全うできない中、代行者を立てることをせずに業務に支障は生じないのか。
七 外務省国際情報統括官組織国際情報官(第四担当)が担当する業務内容につき説明されたい。
八 加賀美氏が長期休暇を取得し、職務を全うできない中で、七の業務に支障を来したことはないのか。
九 一九九六年五月のビザなし交流による北方四島訪問団(以下、「訪問団」という。)に加賀美氏が同行したという事実はあるか。
十 九のビザなし交流の際、ビザなし交流五周年を記念して桜の植樹(以下、「植樹」という。)を行うことを日ロ間で合意していた。しかし、結果的に「植樹」は行えなかったと承知するが、その理由を説明されたい。
十一 二〇〇六年一月一日に講談社から発行された『闇権力の執行人』の百四十六頁に、「平成八年(一九九六年)五月、ビザなし交流が始まって五周年の記念として桜の苗木を植えることになった。
このときロシア側は、検疫証明書の提出を求めてきたのだが、検疫証明書を出してしまうとロシアの管轄に服してしまう。こうした理由で検疫証明書は出せないというのが、『条約局マフィア』の幹部である鶴岡公二法規課長の理屈だった。この際、私たちと同行していた加賀美氏は、船の上から鶴岡課長の指示を仰ぎ、頑なに植樹の中止を迫った。
しかし、そんな建て前論ばかりいっていては、いい意味で北方領土問題解決の糸口になっていた玉虫色の関係が崩れてしまう。加賀美氏は、準備不足で背景を知らなかったようだが、じつは、事前にロシア側と連絡を取り合って、『日本から検疫証明書は出せないが、自発的にある書類を出す』ということで合意していた。
その書類は、『ロシア側には検疫証明書になるが、日本の認識としてはそうではない』ということになる。そうやって、玉虫色の解決策を考え出したという事情があったのだ。」との記述があることを外務省は承知しているか。
十二 十一の記述にある、「植樹」にまつわるやり取り等は事実を反映しているか。
十三 加賀美氏は「訪問団」の日程を十分に把握していたか。
十四 「訪問団」に加賀美氏が同行した際、同じく「訪問団」に参加していた鈴木宗男衆議院議員から加賀美氏が殴打されたという事実はあるか。右質問する。
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました