12350 書評「対中戦略 無益な戦争を回避するために」  宮崎正弘

中国現地、現場にはりついて取材した成果が結晶。習近平はおもったより手強い政治家だと警告する最新情勢分析。
<<近藤大介『対中戦略 無益な戦争を回避するために』(講談社)>>
全体として、じつに面白く、また内部情報満載で有益である。かつ情報がユニークである。新皇帝の習近平を無能とみなさず、むしろ有能で「毛沢東の復活」を模索するしたたかな権力者と捉えているポイントがまずもって独創的である。
新皇帝の周囲を囲んだ「無能」な常務委員、とくに劉雲山、愈正声、張徳江、張高麗の四人は江沢民にごまをすってなりあがって者ばかりだが、この人事は反日暴動を演出した江沢民の陰謀であることを、時系列に経過を追うことで追求している。
反日暴動によって共青団の一斉後退は、奥の院の陰湿な権力闘争で胡錦濤が土壇場で江沢民に大敗したことを意味するという。
そして薄煕来失脚も、共青団の大幅な後退も「習近平の漁夫の利」だったと捉え直し、つぎに習近平は江沢民、曾慶紅ら「恩人」らの排除にも取りかかったのだ、と分析する。
兄貴分だった薄煕来が「邪魔な存在」であったことは評者も同意見で、だから薄失脚は習にとっては幸運だったと言える。
ただし習政権を誕生させた最大の功労者にして恩人の江沢民と曾慶紅を習が本気で排除するとは思えない。いや、もし習がそれをやれば、意外にも習近平は端倪すべからざる政治家の技量を発揮することになる。
軍事委員会のなかで、ただひとり留任した呉勝利を海軍戦略の立案実践者として捉え、習近平が頼りにしていること。また福建省時代からの子分、劉賜貴を「国家海洋局長」に抜擢したことを特筆している。このふたりは軍人脈の中で、もっとも習近平に近い存在であるという。
もうひとつ、本書がユニークなのは、今後日本が育て、かつ「親日派」として重視するべき政治家を一覧し、李源潮(国家副主席)、王洋(副首相)、劉延東(副首相)ら次期常務委員候補の列にくわえて、孫春蘭(天津書記)、胡春華(広東省書記)張春堅(新彊自治区書記)らをあげ、具体的に日本との過去のコネクション、人脈などを丁寧に解説している個所だ。
中国のアキレス腱は環境、汚職、毒入り食品、賄賂、国有企業優先など様々だが、これらを十五のカテゴリーに分けて「中国の弱点をせめる」方法を提唱しているあたりも、本書が実にユニークなポイントだろう。
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました