3月に、北京で全人代が開催されて、習近平新体制が発足した。
習国家主席は、昨年11月の党大会で党総書記と、党中央軍事委員会主席に就任した時に、「軍事闘争の準備を最重視する方針を堅持」すると述べたが、全人代の閉幕式の演説で、「中華民族の偉大な復興という、中国の夢(チュングオモン)を実現しよう」と、訴えた。許其亮・中央軍事委副主席が、「強国夢(チャングオモン)と強軍夢(チャンチュンモン)の実現に奮闘しよう」と、呼び掛けた。
習国家主席は演説のなかで、「中国の夢」という言葉を、9回も繰り返した。ところが、全人代が閉じた日に、中国人民の関心は人民大会堂になかった。
上海の長江の岸辺に、数万頭もの腐敗した豚の死体が上流から漂着した。その目を覆うような画像が、全国の5億人のネットに流れた。現体制の腐敗を、連想させるものだった。
私はいま中国共産党が、1989年の天安門事件以来の危機に、直面していると思う。
中国はあの時、革命の崖っ縁まで、追いつめられた。トウ小平が北京中心街において、大量虐殺を行う決断をしたことによって、独裁体制をかろうじて守ることができた。
習新体制は「海洋強国(ハイヤンチャングオ)」の実現と並んで、役人による目に余る不正の綱紀粛正を中心に据える、改革を前面に押し出している。
だが、今回の全人代の3千人の代議員のうち90人が、18億人民元(約2千8百億円)以上の資産を所有する、1千人のトップの億万長者に属している。1千人の億万長者のリストが、中国で公刊されている。
この数字は、全代議員の3%にしか当らないものの、代議員がみな人民中国の富裕階級に属していることが、想像できよう。
習国家主席は就任演説のなかで、「中華民族5千年余の文明に立ち返って、国造りに当たる」と、述べた。3千年にわたる歴代の中華帝国は、どの王朝をとっても、役人が上から下まで競って不正蓄財に耽った。
今回の全人代でも映像を見ていると、例年のように、白髪の代議員が1人もいなかった。老子の教えのなかに、白髪の老人を働かせてはならない、という戒めがあるからだ。悠久の中華文明は、変わっていないのだ。
全人代を報じたテレビは、連日にわたって北京の汚れた大気を、映しだしていた。
習新体制は、役人の腐敗から、大気や水の環境悪化まで政権の将来について、切迫した危機感に駆られている。そのために、胡錦濤前体制が「中国の平和的抬頭」をスローガンとして掲げたにもかかわらず、一変させて、戦争熱を煽ることによって、国内を引き締めようとしている。
そのかたわら、北朝鮮の金正恩第一書記が亡父の遺訓によって、先軍(ソングン)政治(チョンチ)を受け継いで、11月に3回目の核実験を強行した後に、「戦争準備が整った」「ワシントンを火の海(プルパダ)にする」「東京も例外でない」と、戦争熱をこれでもか、これでもかと、さかんに煽り立てている。
北朝鮮は経済が破綻しているのに加えて、春窮期を迎えて、深刻な食糧不足に耐いでいる。人民を結束させようとして、戦争熱をさかんに煽っている。
中国の一党独裁体制が病んで、高熱に浮かされている。
中国の北朝鮮化が進んでいるのだ。習近平体制はそのために、富国強兵ならぬ、腐国強兵を強行している。
杜父魚文庫
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