<[ベルリン 26日 ロイター]ドイツでは今、ヒトラーやナチスといった言わば自国の「闇の歴史」に対する国民の関心が高まっている。
権力を掌握するに至ったナチスの歴史を扱った展示会には数万人が足を運び、第三帝国をテーマにしたテレビドラマには数百万人の視聴者がつく。ヒトラーが現代のベルリンに現れるという小説は、一夜にしてベストセラーとなる人気ぶりだ。
ドイツでは今年、ナチスに関する歴史の節目を迎えるため、これまで以上に自国の歴史に興味を持つ人が多くなっているようだ。
あの時代に祖父母が何を経験したのか、海外で平和活動に従事する今日のドイツ人にとってナチスの負の遺産がいかに障害となっているか、ギリシャやスペインの失業者がなぜメルケル首相を「新たなヒトラー」と揶揄(やゆ)するのかなど、テレビや新聞、ネット上でもナチスに関する話題は尽きない。
ヒトラーのイデオロギーに感化されて人種差別的な連続殺人事件を起こした女の裁判が来月始まることも、現代社会にもナチスの脅威が存在することをまざまざと感じさせることになるだろう。
今年1月と5月はヒトラーの総統就任とナチスの思想に合わないとされた書物が焼き払われた焚書からそれぞれ80年、11月はユダヤ人の住宅や商店が襲撃された「水晶の夜事件」から75年に当たる。
こうした節目がある種の切迫感を持って迎えられるのは、戦争を生きた世代が少なくなってきているということを実感しているからだ。この世代の人たちがいなくなれば、歴史に興味を持つ若者は、生き証人たちから話を聞く以外の手段を探さなければならなくなる。
「悪魔は抽象的な歴史の闇から何度でもよみがえる」。ナチス時代について書かれた記事の中で、シュピーゲル誌はこう記している。
フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙は、戦時中の若き5人のドイツ人を描いたテレビドラマ「Unsere Muetter, unsere Vaeter(われらの母、われらの父)」を製作したニコ・ホフマン氏のインタビューを掲載。「それが終わることはない」と見出しを付けた。3月に放送されたドラマは700万人が視聴した。
<ドラマと小説の人気>
ホフマン氏はこのドラマについて、18歳でヒトラーの軍に志願兵として入隊した自分の父親のために製作したという部分もあると話す。
歴史家のArnd Bauerkaemper氏は、「このドラマは本当の意味で人々の心の琴線に触れる作品で、特に当時の悲惨な時代を生きていたら自分ならどうしていただろうと自問する若者の心に語りかけるものだ」と評価する。
ドラマでは戦争やドイツ人の罪について、残酷な部分も赤裸々に描かれている。ビルト紙が「ドイツ兵は本当にそれほど野蛮だったのか」と紙面で疑問を呈したところ、ロシアやポーランドから非難の声が上がり、70年経った今でもデリケートな問題であることが示された。
また、ヒトラーが2011年のドイツによみがえり、テレビで人気者になるというストーリーの小説「Er ist wieder da(彼は復活した)」はすでに40万部以上売れ、現在他の言語に翻訳されているほか、映画化も進んでいる。
著者のTimur Vermes氏は、「ヒトラーは当時と違った方法を使い、現代でも成功を収める可能性があるということを表現したかった」と執筆の動機について語った。
<失われた多様性>
首都ベルリンでは、ヒトラーによって崩壊したワイマール共和国の芸術性や知性に富んだ暮らしを称え、当時の一般市民の生活を垣間見るために、「失われた多様性」というタイトルの展示会や舞台、映画などが年中開催されている。
ドイツ歴史博物館は、ポスターやニュース映像、ナチス親衛隊のブーツやピストルなどのレプリカなども展示会を開催。同博物館の女性学芸員は、最近ではこうした展示会への行政からの援助が手厚くなってきているとし、「ユダヤ人、ロマ民族、同性愛者、障害者など、さまざまな人たちが犠牲になったことを記憶に刻んでおくことは、政治的に非常に正しい行いだ」と語る。この展示会には、初めの3カ月で4万人以上が訪れたという。
また、公にゲイであることを認めているベルリンのクラウス・ボーベライト市長は、1920─30年代のベルリンの多様性はナチスによって短期間で破壊されてしまったとし、「私たちは今やその多様性を取り戻したと言えるが、それは過去のものではない。われわれが積極的に守らなければならないこの街にとっての目標なのだ」と語った。(ロイター)>
杜父魚文庫
12463 ドイツで高まる「ナチスブーム」、闇の歴史に学ぶ 古澤襄

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