<[ソウル/ワシントン 26日 ロイター] 核攻撃をちらつかせた北朝鮮の挑発的な言動が、米政府を交渉のテーブルに着かせる目的であったならば、それは失敗に終わった可能性が高い。北朝鮮は、要求水準を再度引き上げる必要性を感じているかもしれない。
2月の核実験以降、2カ月にわたって繰り広げられた挑発的な言動は、一時は朝鮮半島を戦争に近付けたように見えたが、最近は鳴りを潜めている。
北朝鮮は、米国が核兵器保有国としての地位を認めることが対話の条件だと明確に訴えているが、米政府は対話には非核化が条件だと譲らない。
この現状を踏まえると、北朝鮮が対話に持ち込みむために次のような手に出る可能性がある。1)新型長距離ミサイルの発射、2)4度目の核実験、3)韓国との小規模な軍事衝突──。
「米国と北朝鮮の姿勢の隔たりは、以前よりも拡大している」。6カ国協議で韓国の首席代表を務めた千英宇・元大統領府外交安保首席秘書官は「共通理解を見い出すことや対話に向けた条件を見つけることがますます困難になっている」と指摘する。
北朝鮮は2005年の6カ国協議で、すべての核兵器計画の放棄に合意したものの、その後今年を含めて3度の核実験を強行。また昨年には、核施設への査察再開や長距離ロケット発射の自粛に合意していたが、金正恩第1書記が正式に権力の座に就いた数週間後にロケットが発射され、合意事項は破棄された。
このように北朝鮮への信頼が欠如した状態では、米国が北朝鮮の策略に再び引っ掛かるとは思えない。また、北朝鮮の攻撃で米国が火の海となるシーンを盛り込んだプロパガンダ動画が出された後ならなおさらだ。
一方、北朝鮮の最大の支援国である中国は、金正恩氏に対する不満をあらわにしているが、対話再開への道を開く可能性もある。
金正恩体制がスタートした当初、正恩氏が父親の金正日総書記が推進した核兵器計画から決別し、中国式の経済改革に乗り出すのではないかとの希望的観測があった。
しかし、第1書記に就任して1年が経過したが、正恩氏は未だに北京に足を運んでいない。その期間、正恩氏は軍の粛清を行い、側近の人事再編に着手した上、2度の長距離ロケットの発射と核実験を実施した。
中朝両政府に近い関係筋は、「中国は正恩氏がトラブルを起こすことに不満を抱いている。正恩氏は軍に対する統制力を試してきたが、やり過ぎた」と語る。
ただ、中国政府から不満が出てきたとしても、正恩氏はこれ以上失うものはほとんどないと考えているかもしれない。
2月の核実験後に中国は北朝鮮への制裁に同意したが、中国と在韓米軍間の緩衝国として存在する北朝鮮に対し、中国が経済的に抑圧するようなことはしないと、専門家は口をそろえる。
韓国の朴槿恵大統領は5月7日にオバマ米大統領と会談する。この会談は北朝鮮にとって、ミサイル発射や核実験など、軍事力を誇示する機会になり得る。
北朝鮮は朴大統領の就任直前の今年2月に核実験を実施。このタイミングは、ケリー米国務長官の就任時期にも重なり、日本と中国では第2次安倍政権と習近平新体制がそれぞれ本格的に動き出した時期でもある。
米タフツ大学のSung-Yoon Lee教授は、「ここ10日ほどの間、事態が沈静化している理由は、挑発行動に疲れが出てきたためでもなく、トーンダウンする戦略に切り替えたためでもない」とし、「敵の不意を突くためだ」と強調した。(ロイター)>
杜父魚文庫
12475 鳴りを潜める北朝鮮、「敵の不意を突くためだ」 古澤襄

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