<私が留学している北京の大学は、驚くほど韓国人学生が多い。彼らはよく同胞同士で集まり、韓国語で会話しているので「ここって韓国の大学?」と錯覚してしまうこともある。
その数なんと約千人。留学生全体のほぼ半数を占め、日本人の約4倍だ。中韓の親密度合いが増す半面、北朝鮮には「興味ない」と言い放つ中国の若者たち。しかし、「北を捨てて韓国を選ぶのか」といえば…。
■韓国人留学生が多いワケ
彼らのお気に入りは、大学名が入った特製スタジャン。中国人学生はあまり着ないので、すぐに見分けがつく。
海外の大学に通う韓国人学生たちの、並々ならぬ“母校愛”とプライドを感じるのだが、それには理由がある。1年や半年間の短期留学ではなく、4年間みっちり勉強して学位を得る学部生が多いのだ。
中国高等教育学会のホームページによると、昨年の中国への外国人留学生は32万8330人。国別の内訳をみると1位は韓国がダントツの6万3488人、次いで米国2万4583人、日本2万1126人となっている。正規の学部生の数を比べたら、さらに突出しているはずだ。
なぜ、韓国の若者は中国の大学で学びたがるのか。ある韓国人留学生に尋ねると、「母国の大手企業への就職に有利だから」と明快に答えてくれた。
中国市場への攻勢を強める韓国企業にとって、中国語ができて生活習慣を熟知し、中国人の知り合いも多い学生は魅力らしい。韓国人の中国への留学は、2001年に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟して以降、増加を続け、今や留学先として米国を抜いて一番人気になりつつある。
韓国の激烈な受験競争も背景にある。サムスンなど大手企業への就職は極めて狭き門で、通常は国内の名門大学のブランドがないと難しい。そこで、中国の有名大学の卒業証書取得が、大企業就職への“別ルート”になっているというのだ。
韓国の「英語熱」は有名だが、米国の大学に留学後、さらに中国の大学に留学する学生もいるという。
中国の物価の安さも、長期留学する韓国人学生にとっては魅力である。
もちろん、青春の4年間を異国の地で過ごすのだから、中国への思いと覚悟は相当強いはずだ。だが、先の韓国人留学生は「親に求められるまま北京に来たという学生も結構いますよ」とも話す。
■北に冷淡な中国の若者
日本と中国の関係がギクシャクするのを尻目に、韓国は「中国志向」を一層強め、人も企業も中国社会に入り込んでいる。
私の周りの中国人学生が使っているスマートフォンやタブレット端末は、サムスン製が多い。理由は「価格が安くて機能もそこそこだから」。日本人としては少し心配になってくる。大学の各教室に設置されたマルチメディアシステムがソニー製だと知ったときは、正直ほっとした。
上海、北京にいる日本人留学生や駐在員はまだ多いが、内陸部となると、極端に少なくなる。一方、韓国系の店舗などはよく目にするし、留学生も沿岸部ほどではないが多い。
これだけ中国社会で韓国人の存在感が増してくると、将来、中国の政策決定に対して、韓国に有利なように誘導する影響力を及ぼし始めるのではないか、という不安も感じてしまう。
その逆もしかり。
対照的に、同じ共産主義陣営であり同盟国の北朝鮮に対して、中国の若者はいいイメージを持っていない。「あんなに貧しくて、なんで強気になれるのか不思議」とか、「高齢者は割と親近感をもっているけど、われわれはまったくそうではない」という。実は「あまり興味ない」という反応が一番多いのかもしれない。概して冷淡なのだ。
■「“棒子”って言うし」
北朝鮮による3度目の核実験強行を受けて、共産党中央党学校の機関紙の編集幹部が2月、英紙「フィナンシャル・タイムズ」に、「北朝鮮を切り捨て、朝鮮半島の南北統一に向けて動くべきだ」と寄稿した問題は、一部の国内メディアの間でも波紋を呼んだ。
周囲の中国人たちの普段の親韓ぶりと北朝鮮への冷淡さをみていると、「北朝鮮を捨てて韓国を選ぶ」という選択肢が、まんざら荒唐無稽でもない気がする。
そこで国際政治が専門の男性教授に、授業の後にコソッと聞いてみた。「実際、そういう選択ってありですか?」
教授は言下に否定した。「ありえない。中国と北朝鮮はあまりに近く、朝鮮半島情勢のドラスチックな転換は中国への影響が大きすぎる」。やはり本音は現状維持なのだろうか。
ある学生は、韓国人と中国人の「相思相愛」も否定した。「中国と日本って歴史的に対等な関係が長かったけど、韓国とはそうじゃないし…」。
よくネットで取り沙汰される「孔子や孫文は韓国人だった」などの韓国起源説もまた、中国人によいイメージを与えていないようだ。「中国に来る韓国人がもっと増えてきたら、そのうち摩擦も出てくると思うよ」という。
少し声を落とし、こうも教えてくれた。「学校でも『あそこにたむろしているの、棒子(バンズ、韓国人の蔑称)だよ』とか普通に言ってるし」。
■プロパガンダの残滓
そこで間髪入れずに聞いてしまった。「でもどうせ中国人は、日本人のことも、陰で小日本(シャオ・リーベン)とか日本鬼子(リーベン・グイズ)と呼んでるんでしょ」。長期の中国暮らしで、すでに“自虐的”になっている私。
「いや、その言葉はどちらもちょっと古くて、若い人はあまり使わない。日本人は日本人」
まーたまた。目の前にいる日本人に気を使ってないか。
「いや、『日本人』という言葉だけで、すでに悪い意味が込められてるから」
ガクッ…。
そういえば、江蘇省出身のある学生が、地元に伝わる「言い回し」を教えてくれた。だれかにだまされたときは、「日本人にだまされた」といってあきらめるらしい。つまり、大うそつきの代名詞。近年の反日キャンペーンだけではなく、いまだに抗日戦争時のプロパガンダの残滓(ざんし)があるのだ。
■フレンドリーなウイグル人
もちろん日本に親しみを感じてくれる中国人もいる。ある教授が授業で「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土だ」と熱弁を振るっていたとき、斜め前の女子学生がこっそりパソコンで日本の人気アニメ「名探偵コナン」(字幕付き)を見ていたのはシュールな光景だった。
感覚がまひしているのか、中国での“アウェー感”が薄くなってきた私だが、最近知り合ったウイグル人の学生たちは、ありえないほどフレンドリーで感激してしまった。彼らのサークルで日本の武士道について教えてほしいと頼まれ、即席の“講義”をしたこともある。
新疆ウイグル自治区出身の彼らは、家庭では母語のウイグル語、学校では公用語の中国語と2カ国語を使わざるをえない環境のせいか、語学センスが飛び抜けており、たいてい英語も話せる。日本語専攻でもないのに、なぜか日本の平仮名も読めたりするのだ。
ある男子学生は日本のアニメ「北斗の拳」の主人公のセリフ「お前はもう、死んでいる」の物まねが大のお気に入り。発音、抑揚、声色、間、すべてが完璧で、日本人が言ってるようにしか聞こえなかった。
このように大学内の狭い社会にあっても、東アジアの各国・民族間ではさまざまな思惑と感情が交錯し、一筋縄ではいかないのが現状。しかし、韓国人が圧倒的な勢いで中国社会に浸透していることだけは確かなのだ。(産経)>
杜父魚文庫
12566 「孔子は実は韓国人」などと言う韓国人に“ウンザリ” 古澤襄

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