12632 オバマ政権は核抑止をムダにする   古森義久

■【あめりかノート】ワシントン駐在客員特派員・古森義久
■無視された核抑止の効用
オバマ大統領の北朝鮮からの核攻撃の威嚇への対応が米国年来の核抑止政策から外れてしまった、という批判が4月末、核軍備管理の長老的な専門家から表明された。
政治的にはオバマ支持の立場をとってきた民主党系の元軍備管理軍縮局副長官、バリー・ブレクマン氏の批判だから反響も大きくなった。
米国の「核の傘」の下にある日本にとっても、核抑止のあり方は重大な課題である。
北朝鮮は最近の一連の軍事挑発言辞の中で米国本土への核ミサイル攻撃の脅しを明言した。ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの創設者でもあるブレクマン氏は小論文でオバマ大統領の反応を鋭く論評した。
「大統領はアラスカなどのミサイル防衛の強化を命じただけで、核の攻撃や威嚇には核の報復、あるいはその意図の表明で応じて、相手の動きを抑えるという核抑止の構えをまったくみせなかった。いかに好戦的な北朝鮮の独裁支配者でも自国の消滅の可能性こそが最大の抑制となるだろう」
核抑止とはいうまでもなく、敵の核攻撃には確実に核の反撃を加える能力と意思を保つことで敵の実際の攻撃を抑えるという戦略である。米国歴代政権が保ち、ソ連の攻撃をみごとに抑止したとされる。
「オバマ大統領は核兵器の効用を否定する核廃絶を唱えたために、核抑止はもう重視しないということなのか。もしそうならばその説明をすべきだ」
ブレクマン氏はこうも述べながら、オバマ大統領は北朝鮮の金正恩第1書記が核抑止の破壊的な帰結を認めないほど無謀だとみなすのか、とも疑問を呈する。
もっともオバマ政権では大統領も高官たちも韓国や日本に対しては「拡大核抑止」の「核の傘」を含めての同盟国防衛の誓約は強調した。だが「核の傘」を実際にどう使うのかの説明はない。そして肝心の米国本土への核攻撃威嚇に対する核絡みの反応は確かに皆無であり、逆に話し合いへのオリーブの枝を北朝鮮に差し出しているのだ。
オバマ政権の核政策に対しては従来、批判があった。国防総省防衛核兵器局長だったロバート・モンロー元海軍中将はこの3月に以下の見解を発表していた。
「オバマ大統領は歴代大統領が継承してきた核抑止政策を逆転させ、核の効用を無視してきた。その結果、オバマ政権は『核なき世界』という幻想の目標に向かい、既存の核兵器の一方的な削減や縮小、新開発の中止など危険な措置を次々にとり、実際の核抑止の段階的な行使能力をすっかり弱くしてしまった」
現実の核抑止力は報復や反撃の能力が選別的、段階的に確保されていて初めて実効を発揮するというのだ。
しかし核戦力の保持の第一線にあった元軍人とは異なり、ブレクマン氏は1970年代から民主党の各政権で国務省、国防総省、大統領直轄の政策諮問委員会などの枢要ポストにあった文民の専門家である。核兵器の管理と軍縮を専門に担当してきた。
そんな権威からの核抑止についての警告は独特の重みを発揮しそうである。
杜父魚文庫

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