わが国の対潜哨戒能力は世界のトップレベルにある。一般には知られていないが、P3C哨戒機やSH60J/K哨戒ヘリといった最強の対潜哨戒機を約160機保有、搭乗員の熟練度も中国海軍とは比べものにならない。
中国の原潜が約10日間で2度にわたり領海のすぐ外側の接続水域を潜航したことは、米空母ニミッツも追尾行動だけでなく、海上自衛隊の対潜哨戒能力を試す狙いがあったというのは十分に推定される。
本来なら接続水域での潜航行動だから、公開発表するものではない。海上自衛隊の手のうちをみせるからである。5月2日に中国原潜を捕捉した時には、あえて発表していない。
しかし、12日~13日に再度、中国原潜の接続水域内での潜航行動を捕捉し、内閣官房と防衛省が協議して異例の公表に踏み切った。米側とも協議した筈である。
対潜哨戒能力を知られることよりも、中国側の度を越した威嚇行動を国際社会に知らしめることを優先したといえよう。
<13日に判明した中国潜水艦の潜没航行は国際法上問題はない。ただ、約10日間で2度にわたり領海のすぐ外側の接続水域を潜航したことは「見過ごせない威嚇だ」(政府高官)と危機感を強め、異例の公表に踏み切った。潜水艦は米空母もマークしており、日米両国と中国の水面下での攻防が「第1列島線」をめぐり激しさを増していることも浮き彫りになった。
「わが国として注視すべき状況と判断し公表した」
菅義偉官房長官は13日の記者会見で説明、2日と12~13日に「続けて起こった」と強調した。今年1月19日と同月30日に続発した中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦へのレーダー照射と同じで、「黙認すれば常態化させかねない」(政府高官)と判断したのだ。
潜水艦の探知情報は機密性が高く、公表はリスクを伴う。潜水艦の位置を特定するソナーの能力などを把握されるためだが、度を越した威嚇を国際社会に知らしめることを優先。安倍晋三首相が公表を決断した。
中国海軍は原子力潜水艦を9隻保有。2004年に領海内で潜没航行した「漢級」攻撃型原潜を3隻運用し、06年以降には静粛性を高めた後継の「商級」も2隻配備。防衛省はいずれかとみて分析を進める。
今回の潜没航行海域は九州-台湾-フィリピンを結ぶ第1列島線付近。中国潜水艦は09年、宮古島と与那国島の間で日米監視網の穴をつき、ノーマークの形で初めて第1列島線を突破した後、接近を繰り返していることも裏付けられた。
防衛省は中国海軍のフリゲート艦2隻が13日、沖縄本島の南西約660キロの太平洋を西進しているのを確認したとも発表。直進すれば、第1列島線にあたる台湾とフィリピン間のバシー海峡を抜け南シナ海へ出るコースだ。
別の高官は「米空母ニミッツに連動した行動だ」とも断じる。韓国での訓練に参加するため、先月中旬に米本土を出港したニミッツを東シナ海で待ち受け、今月11日に釜山に入港したのを確認すると沖縄近海に展開。追尾や挑発のため帰路を待っていた恐れもある。
そもそも米軍のニミッツ投入は、北朝鮮への抑止よりも対中牽(けん)制(せい)の意味合いが強い。「尖閣の現状変更反対」を確認した先月29日の日米防衛相会談で、日米協力の最重要分野に情報・監視・偵察(ISR)を掲げたのも、中国潜水艦への警戒感の証しといえる。(産経)>
杜父魚文庫
12655 中国原潜 政府に危機感 第1列島線にらみ攻防激化 古澤襄

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