<飯島勲内閣官房参与が18日、電撃的な北朝鮮訪問を終えて帰国した。平壌での北朝鮮側との協議内容は明らかにされていないが、懸案の日本人拉致問題での進展はあったのか-。その「成果」はさておき、実は飯島氏の訪朝は、約半年前に当時の野田佳彦首相の「特使」として民主党事務局幹部が極秘に訪朝し、北朝鮮側と交渉した結果が“伏線”となっていたようだ。
複数の民主党関係者によると、同党事務局幹部は昨年10月30日から11月2日まで、部下の職員を伴って北京経由で平壌を訪れた。この事務局幹部は今回の飯島氏と同様に、北朝鮮ナンバー2の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長や金永日(キム・ヨンイル)朝鮮労働党書記(国際部長)、宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使らとそれぞれ会談したとされる。
この民主党事務局幹部は飯島氏とは異なり政府のポストについてはいなかったが、ときの首相の「特使」としての“重み”は同じだろう。民主党内で同事務局幹部は、党中枢からの指令による「特命任務」をフットワークよくこなす人材として定評がある。
民主党はこの事務局幹部の訪朝自体、公式には認めていない。同党関係者は「同幹部の北朝鮮への出入国記録はない」とも言い切る。
しかし野田政権と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が水面下で進めていた「極秘オペレーション」の一環として、党事務局幹部が平壌入りしたことは、朝鮮総連の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長が今年3月の総連幹部との会合での発言録で判明している。
許議長はこう話した。
「野田総理はわれわれ(総連)に対し、拉致問題を協議するために、民主党の事務責任者を特使として派遣したいと伝えてきた」
「そこでわれわれは本国(北朝鮮)に知らせた。本国は10月30日から11月2日まで、野田総理の特使一行を受け入れることとし、招待所で(北朝鮮)外務省関係者と協議した。最高人民会議幹部とも会った」
朝鮮総連は昨年7月以降、「本丸」である中央本部(東京都千代田区)の土地・建物の競売をめぐり総連側が民主党政権に対し競売回避に向けた「政界工作」を行っていた。
総連幹部との会合で許氏は、その事実を披露するとともに、野田首相側に「競売阻止=和解」での決着を求め、引き換えに北朝鮮で拉致問題に関する日朝間の交渉を行ったと発言していた。民主党関係者はこうささやく。
「朝鮮総連との折衝、党事務局幹部の訪朝は、政権内でも野田首相や中塚一宏金融担当相ら数人しか知らされずに超極秘扱いで進められた。外務省も関与させず、玄葉光一郎外相にも伝えられていなかった」
つまり公にされていない日朝間協議が平壌でひそかに行われていたのだ。今回の飯島氏の訪朝を日本側から事前に伝えられていなかったとされる米国や韓国も、昨秋の民主党事務局幹部の訪朝を事前、事後ともに日本側から正式に報告、連絡を受けていないことは間違いないようだ。徹頭徹尾「極秘」だったからである。
別の民主党関係者によれば、野田政権は総連本部の土地・建物の競売を回避させる条件として、総連・北朝鮮側に拉致問題の進展を迫り「交渉のうえ、日本人拉致被害者を数人帰国させる」というシナリオも浮上していたという。それだけ、北朝鮮側は総連中央本部を死守することに躍起だったわけだ。
「党事務局幹部が訪朝した際、飯島氏同様に平壌空港で政府・朝鮮労労働党幹部が出迎えるなど歓待された。会談者を含めて破格の待遇だった。飯島氏との決定的な違いは、テレビカメラに一切撮られるようなことはなく、すべて極秘とされたことだった」(民主党関係者)
北朝鮮側は党事務局幹部の平壌市内の観光もお膳立てし、博物館や動物園を訪れた際には、わざわざ一般市民を閉め出して「貸し切り」状態にしたともいう。 昨年秋、野田首相が年末に電撃訪朝し、複数の拉致被害者を帰国させるとの憶測が永田町で流れたが、実際にそうした動きが水面下で進んでいたのだ。民主党政権としては、大逆風が吹きすさぶ中、拉致問題で特大の逆転満塁ホームランを放ち、衆院選に向けて劣勢を挽回するという思惑があったことは間違いない。
ところが衆院解散・総選挙に突入したことに加え、12月12日に北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射したことで事態が一変した。民主党が総連・北朝鮮サイドと煮詰めてきたことがすべて水泡に帰した。
しかし頓挫したとはいえ、拉致問題解決を前面に掲げる安倍晋三政権としては、こうした野田政権の「対北工作」のプロセスを看過するわけがない。
政府高官によると、昨秋の民主党事務局幹部の訪朝結果については第2次安倍内閣発足後、官邸サイドに詳細に伝えられ、それが今回の飯島氏訪朝実現への重要な“参考材料”となったという。
飯島氏が4月の民放インタビューで、拉致問題の進展に強い自信を見せた背景には、2度の訪朝を果たした小泉純一郎政権下の首相秘書官時代からの独自のパイプに加え、野田政権時代の秘密交渉の“財産”もあったと受け取れる。
飯島氏の訪朝の狙いについて「夏の参院選前の安倍首相の電撃訪朝への地ならしではないか」という憶測も流れているが、ある民主党幹部はこう指摘する。
「野田政権が半年前にやったことの焼き直しだ。よほど安倍官邸は『行ける』と踏んだのだろう。ただ北朝鮮側にはめられたのか、合意していたのかは預かり知らないが、黒子に徹して交渉にあたるべき人物がテレビに大きく出てしまったのはまずい。会談を公にされて拉致問題が真に進展するとは思えない」
飯島氏の訪朝は、10日に総連本部の競売問題が決着せず、夏に向け“延長戦”となった直後のことだ。訪朝が公開されて「極秘」とならなかったとはいえ、「競売回避」と「拉致問題進展」を取引材料とした、野田政権下の党事務局幹部派遣による対北工作とだぶるのである。(産経)>
杜父魚文庫
12717 野田政権下であった特命極秘訪朝 古澤襄

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