12877 シリア武器禁輸解除で足並み乱れたEU   古澤襄

<[ブリュッセル 28日 ロイター]ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)の外相理事会は、内戦の続くシリアの反体制派への武器禁輸解除を決定。同措置の延長に強く反対していた英仏が、他のEU加盟国を抑え勝利した形となった。ただこれにより、多くのリスクが生まれるだけでなく、英仏のこうした動きを「誤算」とみる外交官や専門家らもいる。
シリアへの武器禁輸措置をめぐっては、オーストリアなど加盟国の圧倒的多数が解除はもちろんのこと、緩和にすら反対を表明する中、EU外相理事会は12時間以上にわたる交渉の末、同措置の延長に合意できなかった。
英仏の断固たる態度は外交官やEU当局者らを驚かせ、この日は「欧州にとってひどい一日」となったという。この決定を受け、6月1日から加盟国の判断で武器供与が可能となる。ただ、その可能性を表明しているのは、英国とフランスだけだ。
外交政策をめぐるEU内のこのような不協和音は10年前のイラク戦争以来で、EU軍事大国である英仏がシリアにおいて期待しうる影響力や、和平交渉に与える影響といった問題を提起している。
また専門家の間では、今回の決定が、米ロ主導で来月に予定されているシリア内戦解決に向けた国際会議に悪影響を与え、ロシアやイランからシリアのアサド政権への武器流出を活性化させるのではと危惧する声も上がっている。
こうした英仏の動きについて、欧州外交評議会(ECFR)のダニエル・レビー氏は「深刻な誤算」だとし、「エスカレートがエスカレートを生むリスク」を指摘した。

<危険な「はったり」>
英国とフランスは実際に武器供与に踏み切るかはまだ決めておらず、来月の国際会議の結果を注視しているとした上で、シリア反体制派への武器提供の法的権限を得たと強調。ヘイグ英外相は「これはアサド政権への明確なシグナルであり、交渉を拒否すれば、われわれも柔軟に対応するということをはっきりと示すものだ」と述べた。
とはいえ、これは「計算ミス」との見方を示す専門家もいる。EUが国際会議に先駆けて武器禁輸措置を延長していれば、ロシアにも後に続くよう求めることもでき、シリアでの軍拡競争を鎮静化させ、交渉の余地が拡大した可能性があるというのだ。
しかし現実はそれとは逆に、今後はシリアの戦場には政権側、反体制派側の双方に武器が増強される可能性がある一方で、政治的には多くの障害が待ち受けることになる。ロシアのラブロフ外相は、この度のEUの決定が国際会議を損なうものだとして非難した。
この1週間でロシアがシリア政府へのミサイル供与を拡大したり、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが同政府への支持を宣言する中でのEUの武器禁輸解除は、平和的というよりも好戦的に見えるかもしれない。
米ノートルダム大学のジョージ・ロペス教授は「制限内ではあるものの、加盟国の判断でシリア反体制派への武器供与を認めるというEUの決定は、1週間で3度目の懸念すべき出来事だった。これはシリア内戦の完全な国際化とみなされるだろう」と述べた。
英仏にとっても、さらなる落とし穴が待ち受けている可能性がある。もし国際会議が失敗に終われば、英仏はリビアの反体制派を協力して支援したように、シリアでもそれが可能なことを示さなくてはならなくなるだろう。
両政府は武器供与について、「穏健な」反体制派のみを対象にするとしているが、キャメロン英首相もオランド仏大統領も、提供した武器が国際武装組織アルカイダなどの手に落ちるのは最も避けたいところだ。
またEUでは、武力紛争を招いたり長引かせたりするような機器の輸出を禁止する法律があるため、供与可能な武器の種類も厳しく制限されている。こうした制約に縛られる中、英国もしくはフランスがロシアとイランに対抗できる可能性はほとんどないと言っていいだろう。
ECFRのレビー氏は「結局のところ、英国とフランスはポーカーゲームではったりをかましているようなものだ。ただ、手の内は読まれているが」と語った。(ロイター)>
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