13058 欧州「失われた10年」の折り返し ロイター  古澤襄

<[ロンドン 19日 ロイター]欧州経済が「失われた10年」の道をたどっているとすれば、今はもう中間地点に達した。だが潜在成長率の落ち込みに歯止めをかけるという政治的な意思が存在するかどうかについては、悲観論が根強い。
欧州は生産性を向上させる抜本的な改革をしなければ、域内総生産(GDP)成長率は潜在成長率を下回り続けるとみられる。それは各国政府が財政的に耐え難い債務負担を減らし、社会的に耐え難い高い失業率を引き下げることを一段と難しくする。来週開く欧州連合(EU)首脳会議は、この「ゴルディオンの結び目」を断ち切る新たな機会になるだろう。
ユーロ圏が遅まきながらも、債務抑制や銀行危機の沈静化で目覚しい努力をしてきたことは間違いない。
欧州中央銀行(ECB)は必要なら弱体国の国債を買い入れると約束し、ユーロ解体の危機は回避できた。国際通貨基金(IMF)によると、スペインは2008年までに対GDP比で10.6%に達した経常赤字を一掃し、ギリシャは10年以降で競争力の格差を半分に縮めた。
さらにEU欧州委員会は2013年春の経済見通しで、欧州危機はより長期的な経済成長の動きには影響を及ぼさないと結論を下した。欧州委は今年の潜在成長率は0.4%程度と推計した上で、構造的な失業率の低下に伴って徐々に持ち直すはずだと予想する。
しかしバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのローレンス・ブーン氏はもっと厳しい見方で、トレンド成長率(潜在成長率)をけん引する二つの力がともに損なわれたと主張する。つまり、低調な銀行貸し出しによって資本設備への投資は抑えられ、特に若年層の高失業率に表れているように人的資本も悪化しつつある。
ところが欧州の政策担当者は、ECBがせっかく提供してくれた機会を生かさず、緊張感を欠いた状態にある。ブーン氏は「例えば銀行セクターの健全化など、これらの問題に取り組む裁量的な経済政策が打ち出されていない。私は欧州委員会よりもやや悲観的だ」と述べた。
<潜在成長率は低下の一途>
若年層の高い失業率が政治課題として急浮上しているのは無理もない。ギリシャでは62.5%、スペインでは 56.4%、イタリアとポルトガルでも40%超に達しているのだ。
経済学的に見ると、若者は年配の労働者よりも生産性が高いので、こうした惨状は潜在成長率をさらに押し下げる要因になる。欧州が高齢化社会を迎える中で、労働生産性の向上は、生活水準を引き上げる鍵になるだろう。
ドイツ銀行の見積もりでは、若年層の雇用がひときわ減少していることで、スペインとイタリアの生産性は0.2─0.3%下がる可能性がある。それだけなら何とかなりそうに聞こえるが、構造改革に手が付けられないと、スペインの潜在成長率は年1.2%程度に、イタリアに至ってはゼロ近辺まで下がってしまうという。同行によると、同じように過去の生産性トレンドと労働参加率に国連の人口予測を加えた分析では、フランスの潜在成長率は年1%となる見通し。
フランス国立統計経済研究所は幾分楽観的とはいえ、今週は潜在成長率の推計値を1.9─1.2%へと下方修正した。1999年から2007年までの推計潜在成長率は2.2%だった。
JPモルガンのデービッド・マッキー氏によると、ユーロ圏全体の潜在成長率も1980年代は2.4%だったのに、90年代が2.2%、2000年代が1.8%、過去4年平均が1.0%と低下を続けている。
潜在成長率を1%近く、あるいは1%超に維持するためには、自然失業率(賃金インフレを起こさないぎりぎりの失業率)の低下とともに、生産性の顕著な伸びが必要となる。マッキー氏はリポートで、この両方の実現にはユーロ圏全体を対象とする大規模な構造改革が不可欠になりそうだとしている。
<政策対応の失敗を懸念>
英ウォーリック大学のニコラス・クラフツ教授(経済学)は、税制の歪み解消や競争力強化、役所手続きの簡素化、教育の機会均等化促進といった供給サイドの改革を実行すれば、欧州の成長率は2030年までに0.5─1%ポイント押し上げられるとみている。
ただ、それには障害がある。クラフツ氏は「ナショナル・インスティテュート・エコノミック・レビュー」で「一般的に言ってこうした改革の実行は、財政に打撃を与えないが、多くの有権者の動揺を誘わずにはいられない」と述べた。むしろ同氏は、各国政府が例えば1930年代の大恐慌への対応で見せたように、深刻な政策面の間違いを犯す事態を心配している。
同氏によると、危機のせいで積み上がった膨大な債務がもたらす経済成長へのマイナス効果を政策担当者が減らそうとして、インフラや教育向けの支出を削減したくなり、それが長期的な経済見通しをさらに悪化させてしまうだろうという。また同氏は、保護主義の広がりや、公的債務負担の軽減のために資本移動の制限によって実質金利を押し下げようとする「金融抑圧」に向かう展開になることも懸念する。
こうした結果として、欧州危機によってトレンド成長率は影響を受けないとする欧州委や経済協力開発機構(OECD)の考えは、楽観的過ぎるというのが同氏の意見だ。
ユーロ圏の潜在成長率はOECDの予想(2012─30年で1.8%)を大きく下回るとみる同氏は「危機が残したのは、欧州の長期的な成長率を大きく下振れさせるいくつかのリスク要因だ。まだそれは広く理解されておらず、OECDなどの諸機関が策定する見通しにも織り込まれていない」と記した。(ロイター)>
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