13064 オバマ核削減提案 露で否定的反応  古澤襄

【モスクワ=遠藤良介】米国のオバマ大統領がロシアとの間で核兵器の追加削減を進めると表明したことについて、露高官からは20日までに否定的な反応が相次いだ。米国が高度な通常兵器の配備でロシアの軍事力を引き離していることに加え、中国やインドなどが核戦力を増強していることが根底にある。ロシアはこうした新たな現実を踏まえながら「大国」の地位を堅持したいと考えており、米露だけが核兵器を削減する旧来型の軍縮交渉にはきわめて慎重な立場だ。
19日の演説でオバマ氏は、米露が新戦略兵器削減条約(新START)で1550発まで減らすとした配備済み戦略核弾頭を、さらに3分の1ずつ削減することを提案。米露が欧州に配備している戦術核についても、大幅な削減に向けて交渉していく姿勢を示した。
これに対し、ロシアのリャプコフ外務次官は「戦略的安定という概念が現在と過去では根本的に異なる」とコメルサント紙に指摘。オバマ氏の提案を検討する際には、米国側の(1)ミサイル防衛(MD)計画(2)精密通常兵器による世界的な即応攻撃能力(3)宇宙空間への兵器配備の展望-を考慮すると言明した。
米国と旧ソ連の核軍縮交渉は、核戦力の均衡が達成され、東西の緊張が緩和した1970年代にさかのぼる。戦略兵器制限条約(SALT)では核兵器の運搬手段であるミサイルなどの保有数を制限。弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約では核戦力の「盾」にも制約を課し、冷戦期の戦略的安定を支えた。
だが、東西冷戦の終結と91年のソ連崩壊で状況は一変する。90年代には2次の戦略兵器削減条約(START)、2002年には戦略攻撃戦力削減条約(モスクワ条約)と軍縮合意は続いた。ただ、これはいずれもロシアが「超大国」から転落し、旧ソ連の軍事力を維持できない事情を背景にしていた。

米国のブッシュ政権が01年末、ABM制限条約からの一方的脱退を通告したことはプーチン露政権に大きな屈辱感を与え、今に至る対米不信やMDへの反発につながっている。
米露は11年に新STARTを発効させたが、これは条約の定める戦略核上限がロシアに“痛み”を与えないと判断されたからだ。
ロシアは、世界各地への迅速な攻撃を通常兵器で可能にする米国の構想を懸念。今後の米露交渉でロシアは、自国の核戦力を脅かすとみているMDに加え、各種の先進型超音速兵器(AHW)を対象に加えるよう求める可能性がある。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の13年版年鑑によると、米露が核削減に動く中、核保有五大国では中国だけが前年から核弾頭を約10発増加させて250とした。インドとパキスタンも、それぞれ1年間で核弾頭を約10発増やしたとみられている。
こうした状況を受け、露高官らは核軍縮交渉に「他の核保有国も加わるべきだ」と主張。ロシアでは特に、4千キロ以上の国境を接する中国の軍備増強に警戒心が強い。ロシアが米国の4倍にあたる約2千発を保有するとされる戦術核についても、近隣に核保有国や核開発を疑われる国がある中では「抑止力の切り札だ」(専門家)と考えられており、削減には否定的だ。
(産経)>
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