13088 安倍は選挙制度審議会に抜本改革諮問せよ  杉浦正章

与野党の党利党略合戦は見飽きた
 
「だました人が悪いのか、だまされた私が悪いのか」と、前首相・野田佳彦が久しぶりに衆院本会議に登場してぼやいたが、6対4で民主党の方が悪い。
民主党は定数削減が実現しなかったことをとらえて、政府・与党の公約違反を攻めるが、ありもしない衆参ダブル選挙を恐れて、「0増5減」の区割り法案を参院で“人質”に取ったあげくに、衆院での再可決せざるを得な
い状況に持ち込んだではないか。
他党を非難するのは筋違いだ。自民党もできもしないことが分かっていながら、憲法違反の疑いの濃い定数削減案を提示していい子になろうとした。党利党略、個利個略で締めくくった国会だった。罪滅ぼしに安倍は第9次選挙制度審議会を設置して、制度の抜本改革を諮問すべきだ。
 
民主党が野田を本会議に登場させたのは、昨年末の解散をめぐるやりとりで、0増5減法案と定数削減を与野党の公約として決めたにもかかわらず、与党が実行に移さなかったことを際立たせるためだ。
しかし、あの時点での約束は、夏に3党で約束した早期衆院解散の履行をめぐって追い詰められ、野田が切羽詰まって解散の理由付けに持ち出した性格が濃厚だ。定数削減より「0増5減」に重点が置かれていた。
その後の経緯を見れば民主党は「0増5減」法案に賛成して成立させながら、その区割り法案に反対するという支離滅裂な国会闘争を展開して問題を混乱させた。
そもそも定数削減問題は民主党が衆院議員の数を80議席削減する案を提示したのが始まりだ。これに対して自民党は公明党に優先枠をもうけるという憲法違反の30議席削減案を提示した。すると維新が根拠もなにもない144議席削減案、みんなが180議席削減と、衆院制度崩壊につながりかねない愚案を次々に提示した。
世論は何も定数削減を求めているわけではない。先進国ではアメリカについで定数の少ない国会に、さらなる削減を求めるのは何も知らない民放のコメンテーターやタブロイド紙レベルの話だ。こうして各党は手前勝手な削減競争の様相を呈し、節操のないポピュリズムを露呈した。
一方で司法は司法で、衆院選を受けて高裁が続続と「1票の格差」を違憲とする判決を出した。最高裁は2011年に「違憲状態」と判断しているが、高裁や支部の中には調子に乗って「選挙無効」とする判決まで出すケースがみられた。
明らかに司法による立法府の裁量権に踏み込んだ上に、再選挙のルールもないままの無責任判決であった。高裁の政治認識の低さを露呈した判決であった。民主党が高裁判決に大騒ぎする一部マスコミの流れを勘違いして利用しようとしたことが、節操のない定数削減競争に至ったのだ。
「0増5減」区割り法案の成立で、秋に予定される最高裁判決はクリアできることになった。まさか違憲とは言うまい。
 
そもそも選挙制度改革は定数削減とは関係なく進められるべき問題である。小選挙区比例代表併用制は1994年に決まったが、これに先立って推進派の河野洋平らはマスコミ関係者に意見聴取した。
筆者は、小選挙区制は死に票が出過ぎること、政治の不安定化をまねくこと、政治家が小粒になることなどを理由に反対した。しかし朝日新聞などは推進論を展開、2大政党が政策の是非で政権交代できると主張したものだ。河野と朝日が推進したのが現行制度だ。
 
6回の衆院選を経た結果はどうであったか。最近の3回の選挙を例に取れば、すべて政党の得票以上に議席の差が顕著に現れる傾向を示し始めている。
昨年暮れの総選挙では小選挙区候補者の総得票のうち、比例復活も果たせず落選した候補者に投じられた「死に票率」は40・4%に上った。
前回の33・5%から約7ポイント増えている。1票それ自体がが無駄になってしまうのであり、問題は1票の格差などとは比較にならないほど深刻さを見せているのだ。現行選挙制度の最大の弊害が顕著に現れている。
民主党政権も自民党政権も過半数すれすれの得票で300議席前後の大量当選を果たすという制度になってしまったのだ。政治家の質も町会議員や区会議員並みになってしまった。ムードで作った民主党政権による失政連続の体たらくは今さら説明するまでもあるまい。
 
さすがにまずいと気付いた河野は「小選挙区制にも問題がある。かつては自民党議員の3割くらいはハト派だった。自民党内で3割で、国会全体では社会党や公明党を足せば約5割がハト派。それが日本政治のバランスをとってきた。制度が右傾化を招いている」と指摘した。
自分のハト派勢力が見る影もない状態に立ち至ったことを選挙制度のせいにして、しまいには「導入した不明を詫びる」とまで言い切った。
 
政治というのは恐ろしいもので、20年たって不明を詫びて貰ってももう遅いのだ。20年間にわたる政治の体たらくは、詫びてすむものではない。
今日本の政治に問われているのは紛れもなく選挙制度改革だ。定数削減などではない。小選挙区比例代表併用制を抜本改革するか、かつての中選挙区制に戻すかしか選択肢はあるまい。
筆者は政治の活力を取り戻し、ひいては国全体の活力向上に結びつけるには中選挙区制しかないと思う。ここは第9次選挙制度審議会を首相の下に設置して、制度改革を諮問して早期に結論づけるときだ。(頂門の一針)
杜父魚文庫

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